

組織文化の変革と、そこで求められるリーダー像とは
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day2_Session4』
経営環境の変化の中でも、他社との差別化を図り組織を継続的に成長させるための重要な要素は、“人”です。
世界のCEO・経営幹部に対する調査GLF(※)から得られた洞察をもとに、変化の時代に求められているリーダー像と、戦略を加速させる組織文化について、プラクティカルな事例を交えながら議論を進めていきます。
※ GLF・・・グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト
MSC社のパートナー企業であり、世界中の組織に対して優れたリーダーの採用、選抜、育成を支援しているDDI社が、1999年から隔年で実施している世界規模のリーダー調査で、日本ではMSC社が主体となって実施しています。
9回目となる最新の調査は、HR業界の著名なアナリストであるジョシュ・バーシン氏と協働で行い、世界50カ国以上、24業界から2,102人の人事担当者と15,787人のリーダーの回答を検証しています。
※GLFはこちらからダウンロードできます。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
事業環境の変化と、それに伴う組織・人材課題
大規模調査に基づくリーダーシップの現在と未来:今後10年間で最も変化すること
リーダーの質、リーダーの供給体制への評価がともに低い日本
5つのメガトレンドと、今後3年間より重要になるスキル
経営層の関心事項とリーダーシップ開発の課題
「ビジネス・ドライバー」に必要な「サクセス・プロフィール」
株式会社マネジメントサービスセンター
代表取締役社長
遠山 雅弘 氏(Tohyama Masahiro)
早稲田大学第一文学部卒。株式会社帝国データバンクを経て、株式会社マネジメントサービスセンター入社後、役員や事業部長などのエグゼクティブクラスの選抜・育成に関するグローバルプロジェクトに数多く携わる。2019年より現職。提携先のDDIとの連携を深め、企業戦略に基づくタレントマネジメントのコンサルティングに従事。現在、経営陣をリードし、企業の人材戦略・育成分野において、企業の成長を支援し続けるHRパートナーとしての企業価値の創造に取り組む。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
執行役員 シニアコンサルタント
久保田 智行
HRDグループは、様々な専門性を持つパートナーと共にお客様のリーダー育成を支援しています。
本セッションは、30年以上、パートナーシップを組んで共に取り組んでいる株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)より、代表取締役社長の遠山雅弘氏をお招きし、お話いただきます。
まずモデレーターが、本セッションの背景となる事業環境の変化と、それに伴う組織・人材課題について説明。事業環境の変化としては、破壊的新技術の動向や高まる地政学的リスク、強化される政府規制などによる高まる一方の不確実性を指摘。その背景の中で、人事制度を適合させるための4つの方針として、
① 事業戦略・組織戦略と統合された流動的な人材戦略の立案・実行
② 人材マネジメントのパーソナライズ化とマイクロフィードバック
③ 人材マネジメントの確実性を上げるためのデータ活用
④ 経営層のリスキリングをきっかけとする「学習する組織文化」の醸成
⇒戦略にアラインする人材の特定、個々人の測定、アダプティブな育成施策の提示が必要
との提言を提示。
この4つの方針を推進させていく上で、HRDグループの心理学・統計学を駆使したアセスメントツール(DiSC/ProfileXT/CheckPoint360)と、経営/組織/人事に関して高い専門性を持つパートナー企業との協働により、お客様を支援していることに触れ、遠山氏のプレゼンテーションに移りました。
遠山氏はまず、MSCを紹介。人材アセスメントを中心にコンサルティング、リーダーシップ開発などを手掛け、年間600社以上・80%以上が継続利用の企業と取引し、過去55年でのべ150万人以上の育成支援を手掛けていること、また世界最大手のリーダーシップ・コンサルティング企業である米DDI社と協働で93か国での多国籍プロジェクトを実施していることに触れました。
続いて本題に入り、「大規模調査に基づくリーダーシップの現在と未来」について説明を開始。まず、DDI社と協働して行っている「グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト(GLF)」を紹介しました。1999年にスタートし9回開催したグローバルで最大規模のリーダーシップ調査で、2014・15年は「VUCAと戦略人事」、2017・18年は「デジタル・リーダーシップ」をテーマとして実施。コロナによるパンデミックの渦中である2020年に調査を行ったGLF2021においては、世界1万5,787人のリーダー(うち日本は1,043人)、2,102人の人事担当者(同89人)が回答しています。
遠山氏は、調査項目の「今後10年間で最も変化すると考えることはどれですか?」の結果について説明。
グローバルと日本企業のCHROの結果を下記のとおり示しました。

グローバルではリスキルが最も変化すると考えられているのに対し、日本では最も変化しないと考えられており、遠山氏は「こうした結果が現在のグローバルと日本の格差となって表れているのではないでしょうか」と指摘。日本では、アウトソーシングやパートタイムが最も変化すると考えられており、「標準化できる仕事にはなるべく固定費をかけず、正社員はクリエイティブな仕事に集中させていこうとする姿勢が示されていると思います」と解説。久保田は「組織を変化させていく具体策として、アウトソーシングやパートタイムが位置付けられているのではないでしょうか」とコメントし、遠山氏は「環境変化や戦略のアップデートに合わせて組織を流動化しやすくする狙いがあると考えられます」と応答。また、「リーダーになる意欲を持つ人材の低下」がグローバルでも日本でも共通している課題として挙げられています。日本の特徴としては、「従業員の忠誠度(の低下)」が挙げられ、遠山氏は「ロイヤリティの形が変わってきているのがうかがえます」とコメントしました。


AIアナリスト・エンジニアに求められるソーシャルスキル
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day2_Session3』
労働力不足のなかで、時代のニーズにマッチした特性を有する人材の確保は簡単ではありません。一方、ビジネス環境の変化に伴い、人材に求められるスキルにも変化が起こり、「リスキリング」が企業の重要な課題に。着目すべきことは、高度な技術スキルとともに、ソーシャル・エモーショナルと呼ばれる対人関係スキルの重要性が増していることです。 日本の労働力不足の中で今後人材が集積する領域として、介護・医療とAI・デジタル市場が挙げられます。
本セッションでは、データ解析の先進企業であり、時代を先取りするブレインパッド社AIアナリスト・エンジニアを統括する方々にご登壇いただきました。優秀なハイスキル人材を抱える組織におけるマネジメント課題と、その解決に向けた取り組みをご紹介し、必要なスキルを有する人材を集め、そのポテンシャルを活かして競争力を高めるために、これからの企業・組織はどのようなことに注力していけばよいか議論していきます。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
株式会社ブレインパッド
プロダクトビジネス本部 本部長
東 一成 氏(Azuma Kazunari)
大学卒業後、鉄道系の情報システム会社に勤務の後、外資系のアナリティクスツール会社にてプリセールス、プロフェッショナルサービスの部隊でデータマイニング、BI、BSCなどの導入支援を担当。その後、海外から機械学習システム、MA、分析プラットフォームなどの日本市場への展開を支援し、ビジネス立ち上げ、プリセールス、トレーニング・導入支援、サポート、日本語化などを担当。現在もMA、拡張分析、ソーシャルメディアアナリティクス、分析プラットフォームに関する国内外のソフトウェアの展開や調査を行っている。
過去にテレコム通信、空港、百貨店、小売・流通、通販、カード、証券、商社、サービスなどの様々な業種への機械学習やMAなどの分析システム導入の経験・実績を持つ。
株式会社ブレインパッド
プロダクトビジネス本部 プロダクトデザイン部 エンジニアリングマネージャー
柳原 淳宏 氏(Yanagihara Atsuhiro)
自社プロダクトRtoaster、L2Mixerの開発を経て、現在はConomiのプロダクトマネージャー兼開発を担当。
レコメンド/マッチング技術を中心に企画、提案から開発、チューニングまで数多くの案件に従事。また新卒採用から研修までの人材育成業務を担当。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
執行役員 シニアコンサルタント
久保田 智行(Kubota Tomoyuki)
まず東氏が、ブレインパッド社の概況を説明。データ分析、システム開発、コンサルテーション、デジタルソリューションの販売・導入といったデータに関わる全方位的なビジネス展開を行っていること、各ビジネスを行ういくつかの本部はそれぞれが上場できるほどの規模があるといった組織の特徴、約150名という国内最大級のデータサイエンティストを擁するとともに、データ活用人材を育成講座で5万人以上育成・輩出していること、およびプロダクトビジネス本部として、多様なニーズに対応するための開発および海外ソリューションの国内展開といった組織の拡大・変更を実施中で、組織全体の底上げとマネジメント力強化が求められているという現状の課題を話しました。
次に東氏は、上記のプロダクトビジネス本部の課題への対応策に言及。このほどHRDとともに、特にスキルフルで多様な人材を活かすマネジメント力強化に向けた1stステップとして、グループマネージャーや部長層とメンバーとの関係構築力強化への取り組みに着手した経緯を次のように説明しました。
「多様な部門が統合されて一つの本部になったこともありますが、コロナ禍によるリモート環境下で、チャットやオンラインミーティング中心の非言語情報が不足するコミュニケーションの難しさの中、会社全体の価値観をいかに落とし込めるか、価値観が違うメンバーの成長をいかに促進させるか、他部署の思いを汲んでいかにスピーディーに連携を進めるかといった課題がありました。そうした中で、相手の志向や考え方を理解することで、より強固なコミュニケーションや組織構築が行えると判断し、1stステップの取り組みを行うこととしました」


個のキャリア自律が組織の未来を創りだす
–海外駐在員のキャリア開発から学ぶ人材マネジメントのこれから–
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day2_Session2』
パンデミックとデジタル化の加速によってビジネスの在り方や市場のニーズが変化する中、働く個人には、これまでのビジネススキルをアップデートしたり、全く新しい領域のビジネススキルを獲得するといった、アップスキル、リスキルの必要性が高まっています。また、終身雇用の終焉によって、企業組織と個人の関係性もこれまでと大きく変化していく中で、働く個人は、自分自身の働く意義をどのように見出し、そして自律的なキャリアをどのように描いていくかについての責任を持つことになります。
本セッションでは、キャリア開発にフォーカスを当て、2名のゲストスピーカーと共にその本質に迫ります。 いま、働く全ての個人は、どのようなキャリア観を持ち、自己を開発していくべきなのか?また雇用側である企業は、個々人のキャリア開発実現のために、どのような人材マネジメントの仕組みを上積みし、マインドチェンジを果たさなければならないのかを考察していきます。モデレーターは、HRDグループ・プロファイルズ株式会社ディレクターの福島竜治が務めます。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
<前編>
KDDI版ジョブ型人事制度
グローバル人材強化のための赴任前研修と人材アセスメント活用
海外赴任者の成否を分けるキャリア観とは?
<後編>はこちら
コンフォートゾーンに安住している日本の弱み
“Like”より“Able”
「自己の相対化」はキャリア観を醸成する
学びへの好奇心、混乱に飛び込む勇気
KDDI株式会社
ソリューション事業企画本部 海外事業推進部マネジャー
武井 章氏(Takei Akira)
法人事業部門において、営業、海外事業企画、合弁子会社設立を経て2015年から人事、組織開発、人財育成、評価を担当し、特に海外グローバル事業人財の育成、キャリア開発支援を推進。現在海外現地法人社長のHRBPであり、また海外出向者へのProfileXTを用いたキャリアコンサルタントとしても活動している。
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社
代表取締役
福田 聡子氏 (Fukuda Satoko)
ウィスコンシン州立大学卒。 大学卒業後人材育成の会社に入社し、新人賞をとるなどして活躍するも、バブル崩壊に伴う業績悪化で他業界に転職。そこで、自分が人材育成の仕事が好きであることを再確認し、業界に戻り本質的なグローバル人材育成への興味を深める。 2000年独立、以来、講師、コンサルタント、経営者としてクライアント400社のグローバル人材育成を支える。 各分野のプロフェショナルとの協働の中で一つ一つ目的に基づいた企画・運営を重ねることで、参加者の人生に大きなインパクトを与え「あの研修なしには今の自分はいない」と言っていただくことが無上の喜び。 常に顧客の視点に立ったコンサルティング、個々の研修参加者のキャリアを考えてのアドバイスなど、その情熱あふれるスタイルは顧客から高い評価を得ている。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
ディレクター
福島竜二 (Fukushima Ryuji)
KDDI版ジョブ型人事制度

まず、福島がグローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ社(以下、グローバル・エデュケーション)がプロファイルズ社のパートナー企業として「ProfileXT(PXT)」を、KDDI社のグローバル人材の育成や見極めに活用しているという三者の関係性を説明、謝意を表明した後に武井氏のプレゼンテーションに入りました。
武井氏は、KDDI社の通信事業をベースとした個人向けおよび法人向けの事業セグメントに触れた後、自らが担当する、世界25地域・58都市・79拠点に2,200名を擁しているグローバル拠点に言及。「約200名の東京採用スタッフが出向し、約2,000名のナショナルスタッフと一緒にお客様をサポートしています」と説明しました。
同社は、2020年7月末、「時間や場所にとらわれず成果を出す働き方の実現へ、KDDI版ジョブ型人事制度を導入」というリリースを実施。
これについて武井氏は、
① 市場価値重視、成果に基づく報酬
② 職務領域を明確化し、成果、挑戦、能力を評価
③ Willと努力を尊重したキャリア形成
④ KDDIの広範な事業領域をフル活用した多様な成長機会の提供
⑤ 「企業の持続的成長」と「ともに働く人の成長」
という5つの柱に基づいた、プロを創り育てる“KDDI版ジョブ型”の新人事制度の主旨を説明しました。
次に、グローバルにおけるIoT、ICT、(通信)キャリアビジネスといった法人向け事業領域を紹介。これらの業務は東京本社にもあり、国内の社員がグローバルに活躍できる素地があることに触れ、「海外で働きたいというWillを持つ人材を求めています」とコメント。本社よりも少人数の海外拠点では、異文化の中でより広範な業務と大きい責任を担うやりがいがあることを強調し、“グローバルで挑戦し成長するプロ”の集団を目指していることが話されました。

続いて、グローバル拠点においては、顧客の属性×サービスの種類×エリアの組み合わせによる多くの領域で専門性を磨けるチャンスがあること、および「KDDIフィロソフィ」や「行動の原則」によって人として成長できる風土について説明されました。
「プロを目指し、人として成長していくことが成果・貢献に繋がるというマインドセットを赴任前研修で伝えています」と武井氏。
その赴任前研修の目的は「現地に立った時から、『垂直立ち上げ』するための研修」であること。
特に、その中でのグローバル・エデュケーションによる「ありたい姿の認識」「自身の能力、コアコンピテンシーの認識」についてのプログラムの重要性が説明されました。
同社では、自身の特性や強みの認識と、人財データの蓄積という2つの目的でPXTを活用。「特に前者において、赴任者に価値を提供しています」と武井氏は言います。海外赴任の内示を受けた際に、不安を感じる社員のほうが多く、そういった人に、自身の特性を知るためのセルフコーチングの材料として提供する狙いがPXTにはあります。
海外赴任者は、PXTの自身のアセスメント結果を用いて、過去の具体的なシーンを想起しつつ自らの思考スタイルや行動特性、仕事への興味を振り返り、自らの能力を棚卸し言語化する意義について言及。

一方、4年間で250人分の人財データが蓄積され、赴任者派遣のタイミングでの継続データの取得、人財ポートフォリオの構築、ハイパフォーマーモデルの確立といったグローバル事業マネジメントモデルが構築された意義についても説明されました。
ここで武井氏の発表が終わり、福島がKDDIの新人事制度のキーワードは「自律と責任」であることに言及。
会社として整備するジョブ型人事制度ですが、個人が自己の責任の下に自律的にキャリアを歩むマインドがあって、初めて成果につながることが紹介されました。
福島は、海外駐在員はグローバルにチャレンジするというポジティブな面がある一方、不慣れな環境で働くことの難しさがあるとの認識を示した上で、うまくいく人材といかない人材の分かれ目について武井氏に尋ねました。

武井氏は、「自分がどうなりたいのかを明確に考え、つくっていける人」と説明。
上長との1on1の中で、ありたい姿と現在の仕事を照らし合わせたり、赴任者が悩んだ時などに武井氏がPXTのレポートを共有しながら1on1を行うなどして、自らの特性と将来ビジョンとの繋ぎ合わせを行う場を設けていることに触れ、アセスメントの効用に言及しました。
福島は、氷山に例えて、水面上のビジネス環境においてチャレンジな状況が生じた際に、水面下の本人の内面を再認識することに武井氏がアセスメントを活用していることを確認。武井氏は「(アセスメントを通じて自分自身のことを)言語化できることがとても大きいと思います」と応じました。
福田氏は、「KDDIの赴任前研修で、PXTにより自分自身を言語化できた効用を明確に感じたことがあります」とコメント。その赴任者が過去うまくいかなかったこととアセスメントの結果が繋がったことを挙げて、次の赴任機会ではうまくいく自信に繋がっていることを表明したエピソードを紹介し、「自分の強みとWillを言語化し明確にする効用をはっきり感じました」と述べました。
「自分の強みに気づいてブレークスルーできた機会」と福島は応じ、自分自身を客観視する重要性に言及。福田氏は、個人は自分がわかっているようでいて自分に関する情報の書き込みを行ってはいないと指摘し、「自分がわかった上で、次にどうしたいかというステップを踏む」と話しました。
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流動性組織:未来の企業競争力は「流動性」が決する
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day2_Session1』
変化への耐性は組織のリキッド化(流動性・柔軟性の高さ)によってもたらされるという長年の学術研究の成果を解説します。さらに、研究成果に加えて、数々のFortune500企業のトップマネジメントに対するコンサルティングの実践経験も踏まえて、日本企業に必要な改革の処方箋を提示します。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
マイアミ大学ハーバートビジネススクール副学長、マーケティング学部長
アルーン・シャーマ教授(Arun Sharma)
グローバル市場のトレンド、市場構造、マーケティング戦略を主な研究領域としている。ビジネススクールでの教育・研究の傍ら、アクセンチュア、アメリカンエクスプレス、AT&T、アウディ、HP、IBM、マスターカード、ペイパル、P&G等、様々なグローバル企業への豊富なコンサルティング経験を有する。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
取締役
韮原 祐介(Nirahara Yusuke)
ディスラプションへの備えとしての流動性
ディスラプションを防ぐ流動性
まず、韮原が本プログラムのDay1を振り返り、「事業環境の不確実性が高まる中、企業のミッション、ビジョン、バリューに基づき、組織や人材をいかに素早く市場環境に適応させていけるかが問われる中、登壇各社におけるEverything DiSCやProfile XT、CheckPoint360°の活用事例などを聞くことができました」と概括した上で、不確実性の高い経営環境に対応するための「流動性組織(Liquid Organization)」の研究で知られる本セッションの登壇者、アルーン・シャーマ教授を紹介しました。
次に、シャーマ教授はプレゼンテーションの前に背景を説明。企業間および国家間競争に興味を持つ中、2018年頃からディスラプション(破壊)の問題が深刻化。複数の国家や企業の関係者から要請を受け、1年ほどを費やしてディスラプションの類型を提示したと言います。「すると、そうしたディスラプションを防ぐ方法を問われ、本日のテーマである“流動性(Liquidity)“の概念に到達しました」と述べました。
「流動性」は国家と企業の双方に通用する概念ですが、本セッションでは企業について扱います。
ここからシャーマ教授はプレゼンテーションに入りました。
まず、研究方法として数多くのCEOやCFO,業界の専門家などと調査研究を行ってきたことに触れ、「現在はグローバルな医療機器会社とディスラプションへの対処法について議論しています」とコメント。また、これまで15回来日し、大企業だけでなく中小企業にも訪問したと言います。
組織における速度、柔軟性、加速(と減速)と両利き
本題に入り、流動性組織とは何かについて「流動性とは、組織における速度、柔軟性、加速(と減速)、そして両利きのことを指します」と説明。どれだけ速く製品を開発できるか。どれだけ素早く方向転換できるか。そして、速度と柔軟性の違いについて、一つの例を示しました。
14年前、携帯電話市場は14%のシェアを持つノキアが支配。2番目はサムスン、3番目はブラックベリーでした。現在はサムスンがトップシェアを握り、ノキアやブラックベリーの電話はもう見かけることはありません。重要な点は、ノキアは週に数台の新機種を導入していても、柔軟性がなく事業全体の方向を変えることができなかったこと。スピードだけでなく、柔軟性も必要なのです。
速度と柔軟性に続く3つめの要素は、スケーラビリティ(拡張性)。どれだけ速く、新たな立ち上げや、逆に規模の縮小ができるか。例として、アメリカ市場におけるトヨタを取り上げました。ベストセラーは「カムリ」でしたが、消費者ニーズは急速にSUVに移行。現在最も売れているトヨタのSUVは「RAV4」ですが、その移行は困難でした。トヨタだけでなく、大半の自動車メーカーはベストセラー車種のスケールダウンとSUVのスケールアップができなかったのです。
「この加速と減速をどれだけ速くできるかが重要」と指摘します。
最後に、両利きであること。
現在の顧客からどれだけ多くを得るかという“Exploitation”(深化)と、新たな顧客をどれだけ探るかの“Exploration”(探求)です。

流動性のある例・ない例
こうした流動性は、迅速な対応を可能にし、組織を行きたい方向に動かすことができますが、阻害するのは組織間の“壁”。製造とマーケティングは通常話し合う必要がなく、間に高い壁ができてしまいます。「しかし双方で、より深い会話ができれば、こうした壁がなくなり企業はより流動的になります」と指摘します。
次に、流動的ではないものを例示。プラハのトラム(路面電車)は電線が必要で、一路線しかなく、非常に固定化されています。
一方、ニュージーランド航空の場合。カタール航空がマイアミに運航を開始すると、ニュージーランド航空の当初の現地スタッフは1人であったところ、ダラスと兼務の0.5人となりました。なぜもっと人が必要ではないのか。チェックインや貨物の受け取り、機内食、燃料サービスのすべてが外部に委託されています。そして、当日のスタッフや機長、副操縦士、フライトクルーは翌日に帰る。「簡単に言えば、ニュージーランド航空はほぼ7日で飛行を開始できる。これが流動的ということです」と言います。
こうした流動性のある企業は収益が高く、成長も速く、レジリエントであるという特徴があります。
「コロナ禍でも生き残った企業はより流動性が高かった」と指摘。流動的な企業には戦略的思考と革新性があり、顧客満足度が高く、エンゲージメントの高い顧客を獲得していて、こうした顧客が高い収益をもたらしているのです。
次に、流動的でない4社として、GM、RCA、シアーズ、ノキアを例示。
GMは、日産やホンダの高品質によって攻撃され、今ではトヨタがGMより多くの車を販売しています。RCAは米国で最大のテレビのブランドであったものが、ソニーの小型化技術に攻撃されて消滅。今度はソニーがサムスンやLGに攻撃されています。かつての世界最大の小売業者、シアーズは、すでに存在していません。ノキアもアップルに襲われて存在をなくしています。


事業×組織×人材の戦略統合による新時代の企業成長論
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day1_Session2』
まだ出口の見えないパンデミック、不安定な地政学的状況、デジタル技術の進展によるディスラプター(破壊者)の脅威など、企業経営における不確実性が益々高まっています。こうした不確実な環境を企業が生き抜くためには、明確な戦略と刻々と変化する外部環境・内部環境に応じた流動性の高い組織と人材作りが必須となります。本セッションでは、まず経営戦略の50年史を振り返り、いま話題となる “両利き経営”や“パーパス経営”などといった経営思想のパラダイムの背景について解説することから始めます。その上で、不確実性の高い環境下で流動的な組織をいかに作るか、適応力の高い人材をいかに作ればよいのかについて解説します。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
講師
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
取締役
韮原 祐介 (Nirahara Yusuke)
まず、韮原は基本となる考え方として、事業×組織×人材の各戦略が統合された経営戦略を提起。
経営者が人事を、人事が経営を語る統合が企業成長のカギとなることを示し、セッションに入りました。

“ポジショニング” “ケイパビリティ” “イノベーション” “両利き” 各重視の論調
1960年代から経営戦略にも科学を持ち込むべきとの潮流が特に強まり、80年代にかけてアンドルーズの「SWOT分析」、BCGの「PPM」、マイケル・ポーターの「ファイブ・フォース」など、「儲かる市場で儲かる手法を行使すべき」という“ポジショニング”を重視する論調が主流を占めました。
80年代に入ると、マッキンゼーの「7S」、BCGの「タイムベース戦略」、ハマーの「BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)」、ハメルの「コア・コンピタンス経営」といった企業の内部環境を重視する“ケイパビリティ”指向の論調が起こりました。
その後、どちらが正しいかとの論争が続き、90年代後半にはミンツバーグの「コンフィグレーション戦略」という中間的な論調が登場します。
またほぼ同時期に、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」、2005年代頃にはキム/モボルニュの「ブルーオーシャン戦略」といった“イノベーション”重視の論調が起こります。
2010年頃になると、マグレイスの「競争優位の終焉」、BCGの「戦略パレット」、最近になってオライリーの「両利きの経営」を重視する論調に流れてきています。
「戦略パレット」は、予測可能性および改変可能性の高低を組み合わせるなどした5通りのアプローチを状況に応じて適合させる戦略。
「両利きの経営」は、“破壊的イノベーションを持つ新規事業”(知の探索)と“既存事業の持続的イノベーション”(知の深化)の双方を追求する戦略です。

経営戦略論の変遷の背景
以上の経営戦略論の変遷には背景があります。ケイパビリティ派の登場の背景には、60年代後半からの内部環境を重視する日本企業の躍進があります。イノベーション派の登場の背景には、“盛者必衰”をもたらす破壊的技術の出現があります。両利き派登場の背景には、金融危機やGAFAの躍進が挙げられます。
「そして最近ではパンデミックが起こり、不確実性が極めて高い状況が今後の経営環境の特徴と言えます」と韮原は指摘します。

ここで韮原は、それぞれの経営戦略を実践している例として、USJの立て直しに成功した森岡毅氏のケースを取り上げました。“ポジショニング”としては、ハリウッド映画から総合エンタテインメントへのポジショニング変更、“ケイパビリティ”では逆向きジェットコースターや戦略人事強化、“イノベーション”としてはVRアトラクションや沖縄テーマパーク構想におけるブルーオーシャン戦略、“両利き”としてはハリーポッターへの大型投資や地磁気センサーを用いたO2Oマーケティングなど。加えて、数理・統計学を用いた需要予測を行うことによる不確実性の緩和施策を挙げています。
経営戦略の4ポイント
以上を踏まえて、韮原は経営戦略を策定する上で押さえるべき4つのポイントを指摘しました。
① 勝つための戦略的ポジショニングも、それを実行する組織・人材も、双方ともに重要であること
② 競争優位は持続しないため、新事業創出と既存事業の改善の両利きが重要であること
③ 市場の不確実性が高いため、新事業創出に当たっては探索的に実験しながら試すことも考慮すべきであること
(ある程度の失敗は許容する必要があること)
④ 数学・統計学などを駆使しながら、定量データによる市場分析を綿密に行うことで、事業の成功確率を飛躍的に
高めることができること

デジタル変革とピープルアナリティクスの未来
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day1_Session4』
多くの企業がデジタル変革に取り組み始める第一歩として、社内にデジタル推進組織を立ち上げています。DX推進では、新規サービス創出等の不確実性の高い取り組みにおいて、できるだけ多くのアイデアを出し、関連施策を走らせていくことが一つの成功要因。しかし、そうした取り組みにあたり、多くの企業でDX人材不足が報告されています。そのため、社内人材の能力開発だけでなく、外部人材確保に向けた経験者採用、また適正配置や処遇に関する人事制度の再設計と仕組み化が喫緊の課題となっています。 当セッションでは、デジタル変革に求められる新規事業創出を可能とする組織・人材をどのように生み出せばよいのかについて、NTTデータでの取り組みを元に考察。同社がデジタル変革に挑むために立ち上げた「出島」組織を切り口とした組織人事の取り組みや、組織のミッション・ビジョン・バリューを起点とし、ピープルアナリティクスを活用した組織風土形成、人材育成の現在進行形のプロセスを、事業トップとそれを支えるコンサルティング部門のリーダーからご紹介いただきます。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
♢ゲストスピーカーの紹介♢
<前編>
デジタル戦略室のTalent Transformation戦略
現場、DSO、人事の“三位一体”がポイント
SDDX事業部のミッション
SDDX事業部の組織課題と解決施策
<後編>はこちら
PXTで人が変わり文化が変化する土台に
「PXT統括読み替え表」で到達度を深める
PXTの人財還流とジョブマッチへの活用
企業と社員のマッチング追求が大きな流れに
株式会社NTTデータ
ITサービス・ペイメント事業本部 SDDX事業部長
内山 尚幸氏 (Uchiyama Naoyuk)
1996年当社入社。カード&ペイメント事業部ビジネス企画統括部長、ITサービス・ペイメント事業本部サービスデザイン統括部長を経て、2019年4月より現職。ペイメント領域の新サービス企画、リテール・サービス業界をターゲットとしたソリューション企画などに従事。
グローバルブルー・ティエフエス・ジャパン株式会社 取締役。ネットイヤーグループ株式会社 取締役。
株式会社NTTデータ
コンサルティング事業部 部長
コーポレート統括本部 デジタル戦略室(Digital Strategy Office)兼務
東谷 昇平氏 (Touya Shohei)
2002年にNTTデータに入社。セキュリティ、データセンタ、クラウドの事業に従事し、SI、ソリューションセールス、企画・マーケティング、アライアンス、ハイアリングなどの職務を経験。近年はコンサルティング事業部にてデジタルタレント・ピープルアナリティクス、マーケティング・ブランディングを手掛ける。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
ディレクター パフォーマンスコンサルタント
水谷壽芳
デジタル戦略室のTalent Transformation戦略
ゲストスピーカーの自己紹介トークの後、セッション開始。 まず、東谷氏が「デジタル変革の取り組みの背景」について説明を行いました。東谷氏が在籍しているデジタル戦略室(DSO)は2017年にスタート。まずは“デジタル”についての概念の社内共通化を図るべく、役員や事業部長を集めて丸一日議論したことが報告されました。その場では「顧客の期待する成果」「顧客にとってのデジタル化」「デジタル化を実現する6つの領域」を定義。その上で、DSOは同社のデジタルビジネス加速化のために、次の3つの戦略を導出しました。

① Direct Investments:受託から顧客との新ビジネス創出へのシフトへの投資
② Strategic Partnerships:変化の激しいデジタルへの取り組みを行う仲間づくりへの投資
③ Talent Transformation:自社のDXのためのデジタルネイティブ育成への投資
DSOは、Talent Transformationの目的を① 新規ビジネスアイデアを事業化に繋げる仕組みと文化・風土の醸成、② クライアントとアイデェーションから事業化までを推進できる人財の育成、の2点に設定。その背景として、クライアントからの「一緒にデジタル化を考えてほしい」との要請の高まりや、それに応える人材育成という課題があることを挙げました。
2点の施策の方向性としては、①に対しては「チャレンジする人が育つ場をつくる」「トップのコミットで熱意を挽き出し行動を促す」、②に対しては「クライアントと共に道を切り拓く人財を育てる」という“場”“マインド”“スキル”の3要素を掲げるとともに、現場、DSO、人事が役割分担し、三位一体での推進がコミットされたことが説明されました。

「この“三位一体”がポイント」と東谷氏。同社には数多くの現場があり、人事は共通項を意識した施策を打ち出しがちとなる半面、各現場はそれぞれのニーズにより則したものを求めるからです。そこで、このギャップを埋めるべく両者の間にDSOが介入し、現場と人事を繋いで戦略的に施策を展開することを意図。DSOが現場の“場”“マインド”“スキル”を整える処方箋をつくり、人事と共有し人事が全社に展開する仕組みを考えました。

そこでポイントになったのは、どの現場をモデルにするか。同社は公共、金融、法人の3分野で約50の事業部があり、それぞれビジネスや課題が異なるからです。そこで、以前行った組織診断結果から、DXに対する課題観は共通しているものの、相対する業界の成熟度の違いから課題に対する温度差があることを分析。①ターゲット市場のDX成熟度が高い②組織が新規事業開発にコミットしている③組織長の覚悟、という3点で現場を選定し、処方箋をつくり全社展開することがベストと導き出しました。「これで選んだのが、最もデジタル化が進展し、新規オファリングをミッションに掲げ、“覚悟の男”の内山氏が率いるSDDX事業部でした」と東谷氏。
以上の説明に、水谷は「学びのポイントがたくさんありました」とコメントし、大企業における現場と人事とのギャップを埋める組織の意義に触れました。戦略をつくることはできても、その実践は難しいことを指摘した上で、交流のある東谷氏の組織人事に対する熱意を紹介。東谷氏は「関心のあることをやらせてもらえているからです」と回答しました。
水谷は、内山氏にDSOの取り組みに対する見方を問うと「一事業部ではできない投資を割り振ってくれるチャレンジングな取り組みで、新たな気づきもありました」と評価。DSOの処方箋づくりに選定されたことに対しては、「目的に同意したので一緒にやってみようと思いました」と回答しました。

次に、内山氏がSDDX事業部を説明。SDDXとは“Service Design & Digital eXperience”の略で、顧客の新たな成長源泉づくりを目的としたDXと、ビジネスを加速させるマーケティングのデジタル改革の2点をミッションとして、2019年4月に設立されました。新規ビジネス創出事例として、レジがないウォークスルー店舗「Catch & Go」を例示。デジタルによるリテールビジネスのアップデート施策として、人手不足や販売機会創出、人件費削減という価値を提供するものです。

ここで水谷は「『Catch & Go』のデモを見せてもらい、顧客体験を変えるソリューションと実感しました」とコメントし、社内外の反響を尋ねました。内山氏は「多くのメディアに取材してもらい、お客様にも体験してもらってこうした取り組みの意義が理解されました。非常に好評です」と回答。東谷氏は「内山氏と喫煙室でたまたま会った際に、元々あった『Catch &Go』のデモ機で実際の店舗を本社内につくってみたらいいのではと話したことが発端になっています」とのエピソードを披露。IT企業の同社が実店舗を運営してみることで、小売業や消費者の受け止め方が理解できるというわけです。そして、内山氏に「Catch & Go」を3か月ほど運営し、データを取ってわかったことなどの成果を尋ねました。内山氏は、最も売れているおにぎりの購入者特性や、時間帯別および顧客属性別の動線の違いなど「やってみてわかったことがもの凄くたくさんあり、データで次を考えられるようになりました。当社はシステムをつくることが得意ですが、そのシステムで得たデータをどう生かすかに気づけたことが大きな成果」と話しました。
水谷は、そのようなSDDX事業部の活動の裏側にある組織人事に話を向けました。
内山氏は「足元でもがいている状況をお話しします」と、同事業部が抱えている課題を説明。「Catch & Go」のような世の中にない新しい事業やサービスを生み出そうとした時、事業部長の「顧客業界の最高の未来を創ろう!」と号令をかけても、メンバーの間には「本当にできるのか?」「どうやれば評価されるのか?」との疑問が生じたと言います。その要因として、事業部長の方針の抽象度の高さやメンバーにとっての優先順位の問題、既存事業とは異なるであろう方法論が見えないこと、そうした中でもメンバーが考え出したプランに対する事業部長のフィードバックが、結果的にメンバーが迷うようなものになったとの問題がありました。また、事業部の設立当初は社内から専門性が尖っている異能人材を集めたものの、その後一般的な人材も加わる中、高度な目標に対して個人戦から組織戦に変えていく必要性が浮上。「それまでの組織力を高める上で人材への取り組みが弱いと反省しました」と内山氏は打ち明けます。

そして、①ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の定義・浸透、②事業戦略と実行プロセスの定義・発信、
③人財特性を加味した実務支援方法の整備という施策を打ち出したことに触れ、ここでは③について説明されました。

組織として目指している、顧客価値創造型のアジャイルなスタイルにおいて必要な人材像(ロールモデル)の策定や、その育成支援を開始。具体的には、顧客価値を生み出す人材として“走者”と“伴走者”の2タイプが必要との仮説を出し、Profile XT(PXT)を用いてそれぞれのロールモデルを策定しました。走者とは、不確実性の高い世の中で0から1を生み出す者で、1のアイデアを10にビジネス化するのが伴走者という定義です。その上でメンバーの資質をPXTによって可視化し、ロールモデルとのギャップを数値化。そして、まずはギャップを解消するための各自の内省をコミュニケーションによって支援するところから育成体制の整備を始めました。


企業変革を加速させる組織と人材の力
—事業成長に合わせて組織と人材像を再定義するための方法—
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day1_Session3』
消費者の価値観の変化、テクノロジーやデータ活用の進展、サスティナビリティに対する要望の高まりなど、事業戦略を描く上での前提条件が大きく変化しています。このような経営環境下において、経営リーダーは事業の方向性を見定め、その実行を支える組織や人材像を再定義していく必要があります。
このセッションでは、“事業構造の変化と人材需要のギャップにどう適応していくのか”という問いについて、事業トップマネジメントとビジネス現場に通じる組織・人事コンサルタントによる対談形式で議論を深化。組織ミッションを起点とした構造改革を進める中で、事業戦略の最上位概念に“人の価値の最大化”を据える事業トップの生の声をお届けします。
また、“企業変革を加速させるために、事業リーダーはどのように自らをアップデートさせるべきなのか?”というテーマにも触れるとともに、経営人材育成のプロフェッショナルが現在進行形で取り組んでいる“リーダー自らが進化していくプロセスや考え方”の実践的アプローチを共有します。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
♢ゲストスピーカーの紹介♢
“CS”から“CX”への変革
変革の絵をどのように形に落とすか
組織と人材像の再定義:組織変革の全体像と事例
“総論賛成・各論反対”から“総論賛成・各論賛成”へのプロセス
経営と人事をどう繋ぐか
視聴者からのQ&A
トランスコスモス株式会社 執行役員
デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括
アカウントエグゼクティブ総括副責任者 兼 デジタルカスタマーコミュニケーション総括副責任者
田渕 和彦氏 (Tabuchi Kazuhiko)
1995年よりコールセンター事業に携わり、センター立ち上げや現場管理者、プロジェクトマネジメント、人事を歴任。
2005年 トランス・コスモス シー・アール・エム沖縄(株) 取締役、九州・沖縄エリアの責任者を経て、2010年 中国へ渡り EC事業運営に従事。 2012年からは日本に戻り、西日本エリアの責任者を担当。 2016年以降はアカウントマネジメント部門とデジタルコミュニケーションセンター部門を担当し、2019年4月に弊社 執行役員に就任。現場主義を貫き、企業のカスタマージャーニーに沿った顧客戦略全般を支援。
グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネジング・ディレクター
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事
西 恵一郎氏 (Nishi Keiichiro)
早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、コンビニエンスストアの物流網構築、商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。B2C向けのサービス企業を立ち上げ共同責任者として会社を運営。グロービスの企業研修部門にて組織開発、人材育成を担当し、これまで大手外資企業のグローバルセールスメソッドの浸透、消費財企業のグローバル展開に向けた組織開発他、多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を行う。現在はコーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター兼中国法人の董事を務める。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
ディレクター パフォーマンスコンサルタント
水谷壽芳
まず、田渕氏が自社における取り組みについて、次の3項目に則して説明を行いました。
① 市場の変化と組織課題
② 人の価値を最大化する人財育成・組織活性化
③ これからの目指す姿
① 市場の変化と組織課題
AIに置き換わる職業への危機感
田渕氏が所管するコンタクトセンターの市場は、2015年の7,400億円から2020年に1兆154億円まで拡大。同社の売上高も、2017年度の2,423億円から2021年度の3,364億円まで伸びており、11期連続での増収となっています。世界30か国・地域で6万人の従業員を擁するグローバル企業であり、国内においては北海道から沖縄まで全国に2.3万人の従業員が在籍しています。
このように事業が急拡大する中、2014年に発表されたマイケル・A・オズボーンの『雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるのか』において、AIに置き換わる職業として「コールセンターオペレーター」が上位に挙げられました。「これを見た瞬間、我々の事業はどうなるのかという危機感を覚えました」と田渕氏は打ち明けます。
“金太郎飴”からCX創出人材へ
これを機に、自社のサービスを再検討。それまでは、平準的で標準化され、安定的に運用される“汎用量産型”のサービスモデルによる“CS”(顧客満足)を追求していました。これからは、商品・サービスの購入前後におけるあらゆる接点で顧客にどんな体験を提供し、どんな心理的価値を感じてもらうかを重視する“顧客別カスタマイズ型・課題解決型”のサービスモデルによる“CX”(顧客体験価値)が求められると結論。したがって、人材も“金太郎飴”からCXを創出できることへのスキルチェンジを図る必要性が浮上したのです。

「そこで、CSからCXに変革するために我々は何をしなければならないのかを考え直さなければならないと考えました」と田渕氏。そして、なりたい姿の“Vision”、使命・存在意義の“Mission”、行動・考え方の“Value”から再定義。「経営層から現場まで共有・理解した上で事業運営に当たらなければ変化のスピードに追い付けないと考えました」と田渕氏は言います。「コミュニケーションの力で人の幸せと豊かな社会の懸け橋になる」というVisionの下、コミュニケーションの力で何ができるのかを個々の従業員が考えてチャレンジすることが重要であると打ち出したのです。

② 人の価値を最大化する人財育成・組織活性化
外部のプログラムやサーベイの導入
「変化していく中で、人材が一番重要であると認識しています」と田渕氏。その人材の価値を最大化するために必要なことは何か。まずは上層部の意識変革が必要と考え、外部の知見を取り入れながら“他流試合”を行い、自らの考え方と世の中のギャップや自らのポジションを認識する機会を持つことにしました。そこで、2018年からGLOBISのミドル・マネジメント・プログラムの受講と、プロファイルズ社のCheckPoint360°サーベイを本部長以上に導入。2019年にはGLOBISのエグゼクティブ・マネジメント・プログラムの導入や、CP360°の部長以上への拡大、およびProfile XTを課長以上に実施。2021年にはCP360°を課長以上、PXTをマネージャーにも実施するなど順次拡大し、これまでにCP360°は128名、PXTは480名に実施しています。

経験と勘に頼った人事からデータの活用へ
360°サーベイでは顕在化している領域を、PXTは潜在化している領域をそれぞれ測定するもの。「国内2.3万人のメンバーの潜在能力をいかに早くキャッチするか、リーダー層の顕在化している能力をいかに評価するかという観点で導入を図りました。これによって、自己流のマネジメントを見直し、事業戦略に基づく人的資本の最適化を行っていくことが重要だと認識しています」と田渕氏は言います。田渕氏には、自分自身も属人的な人材の登用や配置を行ってきたという反省がありました。
「従来のように経験と勘に頼った人事ではビジネスのスピードに追い付けず、データの必要性を実感しています」と田渕氏。
360°サーベイとPXTを活用し、本部長や部長の状況を見る人財ポートフォリオの作成、パフォーマンスが高い組織とそうでない組織における上司部下のフォーメーションの違いの分析、配置転換や組織編制に繋げています。
「先々で状況が変化した際に、今からデータを持っておかないと何が適正なのかが計れないとの考えがありました」と田渕氏は説明します。
③ これからの目指す姿
「SUPPモデル」
まずは、Mission・Vision・Valueに基づいて行動する人材の育成を最重要のテーマに挙げています。この浸透を図る共有(Share:耳で聞く)、理解(Understand:頭でわかる)、自分ごと(Personalize:体が動く)、実践(Practice:腹落ち)の「SUPPモデル」において、自分ごと化するプロセスを重視。このため、360°サーベイ結果を自己開示して対話し、率直なフィードバックを歓迎することにより、お互いを理解し認め合うことを通じて組織としてどう成長していくかを考える機会を設けています。

ここで田渕氏は自らの360°サーベイ結果を開示。「最初はサーベイのコメントを素直に受け入れられない部分もありましたが、対話を通じてどんな組織にしていくべきかを語り合いながら、ありたい姿に向けて取り組んでいくと、翌年、翌々年とスコアが向上しコメントもどんどん変わっていきました」と田渕氏は話します。

コンタクトセンター事業のありたい姿とは、「革新的・先進的なサービスと私たちの事業の原点でもあるコミュニケーションの力によって顧客体験価値を高め、地域と社会に貢献する」「多様性をもったすべての人とのつながりを大切にし、人の価値を最大化させ社員全員が自己実現を果たしワクワク働き成長する」というものです。
未来の付加価値人財モデル
同社では、今後のデジタル化、AI化、効率化の中で、顧客の課題にマッチしたソリューションの提供に繋げるために、どのような付加価値を付けるべくスキルチェンジを図るかという「未来の付加価値人財モデル」を定義。「運用のプロフェッショナル」「コンサルティング」「アナリティカル」「イノベーティブ」の4タイプを抽出しています。PXTを活用し、これら付加価値人財を発掘し育成していくことを検討しています。

「顧客に向き合う組織を目指す上で、資産として人財が最重要であり、属人的にならないようデータを活用しながら人財配置の最適化を図っていきます。こうした集団が顧客によりよいサービスを提供できるのではないかと考えています」と締め括りました。

「ザ・ベスト リージョナルバンク」の実現に向けた事業進化の轍
—経営環境の変化をチャンスとする組織・人事戦略—
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day1 Session1』
事業基盤である九州の持続可能な発展に貢献するとともに、すべてのステークホルダーから支持される「ザ・ベスト リージョナルバンク」の実現を目指している、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)。4銀行のグループ統合やデジタル技術を駆使した事業の高度化などを実現しています。中でも、日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」の設立や、“人生100年時代”に合わせた金融サービス「投信のパレット」など、先進的なサービスは従来の金融サービスと一線を画しています。今回のセッションでは、こうしたグループ統合や新サービス誕生秘話、そしてその背景にある失敗を恐れない企業風土の形成や人事施策などについて、同社取締役として事業成長を牽引し、2022年4月1日にFFGおよび福岡銀行のトップに就任される五島久氏にお話を伺いました。
セッション動画はこちらよりご覧いただけます。
<前編>
「シングルプラットフォーム・マルチブランド」の経営スタイル
「失敗を恐れない」といった組織文化と新サービス
“企業の目的”と“個人の目的”を繋ぐリーダーの役割
<後編>はこちら
人事領域におけるデータ活用
人事データの機能と活用
好奇心の重要性について
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ取締役執行役員
株式会社福岡銀行取締役専務執行役員
五島 久氏 (Goto Hisashi)
1985年、九州大学・法学部を卒業後、㈱福岡銀行へ入行。
人事部・副部長、総合企画部・部長、営業推進部長などを経て、2017年に同行の常務執行役員並びに
㈱ふくおかフィナンシャルグループ・執行役員に着任後、現職に至る。
モデレーター
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
ディレクター パフォーマンスコンサルタント
水谷壽芳
まず、水谷は五島氏にFFGが2007年の設立以来築いている独自の経営スタイルについて尋ねました。五島氏は、まずFFGの沿革を説明。2007年4月に福岡銀行(創業1877年)と熊本銀行(創業1929年)の統合に始まり、同年10月に長崎の親和銀行(創業1879年)を経営統合。2016年4月にデジタルを活用した様々なサービスを提供する「iBank」事業をスタート。2019年4月には長崎の十八銀行を経営統合し、2020年4月に十八銀行と親和銀行が合併し十八親和銀行が誕生。2021年5月に「みんなの銀行」サービスを開始。こうしてFFGは現在、4つの銀行を傘下に置いています。「設立から14年が経過し、経営は少しずつ進化しています」と五島氏は話しました。
次に五島氏はそのFFGの経営スタイルを説明。グループ経営理念「高い感受性と失敗を恐れない行動力を持ち、未来志向で高品質を追求し、人々の最良な選択を後押しする」や、コアバリュー「いちばん身近な銀行/いちばん頼れる銀行/いちばん先を行く銀行」などの下、福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行の3行を顧客接点としつつ、FFGが一つのプラットフォームで商品・サービスを提供する「シングルプラットフォーム・マルチブランド」という経営スタイルを取っています。「マルチブランド」は、地方銀行としてそれぞれの地域社会や地域の顧客との関係性を重視し、地域に密着して営業を展開する姿勢を示しています。一方、グループ経営をより効率的・効果的に進めるため、各行のシステムや事務などのインフラを共通化するとともに、企画機能をも一体化させる「シングルプラットフォーム」を構築。
「足腰は一つ、上半身は各地域で活動するといった経営スタイル」と五島氏は説明しました。
これを受け、水谷は「地域とのエンゲージメントを維持しつつ、スケールメリットを出す秀逸な経営モデル。これを実現させていくところにFFGならではの強みがあると思います」と述べ、これを支える要素について五島氏に尋ねました。

五島氏は、「各行がオリジナリティは持ちつつ、インフラはあたかも一つの銀行のように機能させるべく、FFGと各行の間でノウハウや意識の共有することが非常に重要」と指摘。そのため、統合直後から役員層から若手まで延べ1,000名を超える人材交流を積極的に実施してきたと話しました。
ここで水谷は、FFGのブランドブックに記された「失敗を恐れない」といった組織文化の強さに言及。これを受け、五島氏はブランドブックを持ちながら、組織文化づくりの基盤となる考え方を全社員で共有していることを説明。「この中で、『失敗を恐れない』ことが強調されています」と話しました。
★FFG統合報告書/組織文化つくりの記述があります:
https://www.fukuoka-fg.com/investorimage/ir_pdf/tougou/202110/all.pdf
水谷は、こうした組織文化の中で生まれた新しいサービスとして、「投信のパレット」について尋ねました。
五島氏は「独自開発のシステムで、国内の約4,800本の投資信託を公平中立に評価・分析し、優良な投信を組み合わせながらお客様のニーズに最適な資産運用プランを提案、その後きめ細かくフォローアップしてお客様の資産運用を長期に渡って支えていくサービス」と説明。続いて、「人々の最良の選択を後押しする」という経営理念、「お客様本位の営業」という営業理念のもと、“人生100年時代”に必要な資産づくりという背景・ニーズに対応する開発目的に言及。「現場の担当者の間には、『投信を売ったのはいいが本当にお客様の役に立っているのか』『銀行本位でやっていることではないのか』との本音がありました。私自身も自信を持ちきれないところでしたので、真にお客様のためになるサービスを開発しようと始めたのがこのプロジェクトです」と話しました。

水谷は2020年2月にサービスを開始したこの「投信のパレット」の取引残高が1,700億円、顧客数3.3万人に及ぶという反響の大きさを紹介した上で、「新規事業は簡単ではない中、社員によく伝えていることがあると伺いました」と話を振りました。
これに対し、五島氏は、「“システム×商品・サービス×人”の大きな要素がうまく連動することでいいサービスができ、お客様が満足し、従業員の『これでいいのか』との不安も払拭でき、成果が上がって収益に繋がり、次の投資に回せるという、まさしく『論語と算盤』のような世界ができると思います」と話しました。続いて、自社がこれまで社会インフラとして様々な金融サービスを提供し地域を支えてきた志について社員に話しているとした上で、“企業の目的”と“個人の目的”について言及。企業の目的は、世の中に善をなし利益を上げ続けるという好循環を目指す存在意義の追求にある一方、個人の目的は社会で役に立ち個人として成長することにあり、「この両者を併存できるように繋ぐことがリーダーの役割」と指摘しました。「一人ひとりの従業員も、会社にやらされているのではなく、自分のやりがいや生きがいを得るために仕事に向き合うことが大事であるという話をよくしています」と話しました。

この話を受け、水谷は「その話は最近よくスポットが当たっている事柄」とした上で、以前は会社が従業員を働かせるという関係性にあったところから、今では会社は働くインフラを提供し、従業員は持てる能力を発揮するというWin-Winの関係にあると指摘。そして、HRDグループが公開した論考・「経営戦略策定の手引き(2022年度版)の中でも、企業と個人の目的をすり合わせる必要性について書かれていることに触れ、五島氏が実践していることについて尋ねました。
(HRDグループ・論考「経営戦略策定の手引き(2022年度版):https://www.hrd-inc.co.jp/file/wp/wp_vol.pdf )
五島氏は、お客様本位の営業と持続的成長のために収益を上げ続けなければならないジレンマは誰しもにあり、従業員も“論語か算盤か”との二者択一的になりがちな難しい問題であるとした上で、「だからと言って目をつぶっていていいわけではなく、あえて認識しながら少しずつ歩みを進めていくことが大切という話をしています」と述べました。
「同じ方向に歩みを進めつつ、それぞれの立場で解釈を深めていくことで組織文化がより深まっていくように思います」との水谷の投げかけに対し、五島氏は「会社と個人の目的が結びついた時に、関わる全員がより幸せになれると思うからこそ、難しい問題ですがしっかりやっていきたいと思います。人事制度や風土づくりはその延長線上にあり、ダイバーシティインクルージョンとしても一人ひとりを理解し、活躍のフィールドを整備することが大事であると思います」と答えました。

「変化の激しい時代に一歩先の価値を提供し続ける組織であるために」そこでなぜDiSC®を導入したのか。
NECソリューションイノベータ東海支社の事例から考える
少子高齢化や地方の過疎化、自然災害の増加や近年のパンデミックなど、私たちは大きな社会課題に直面しています。この状況にどう対処すべきか、その解を持っている人は多くないでしょう。
それはシステムインテグレータの分野でも同様です。「与えられた仕様書に基づいてモノを作る時代は過ぎ、私たちからお客さまに提案する時代になっています。これからの企業は顧客の要望に応えるだけでなく、みずから打ち手を提案し、顧客の課題を見つけて改善することで価値を提供していく必要があります」こう話すのは、NECソリューションイノベータの東海支社長を務める浅川大和氏。とはいえ、自ら行動を変えていくのは容易ではありません。
そこで浅川氏が行ったのが、組織力強化に向けたコミュニケーション改革でした。東海支社の全社員約550名にDiSC®を導入。「DiSC理解ワークショップ」を全員が受講し、自身の「取扱説明書」を作るなど、大規模な施策を行いました。
なぜ組織に目をつけたのでしょうか。浅川氏にDiSC導入の狙いや成果を聞いていきます。
全国に拠点を持つNECソリューションイノベータは、NECのグループ会社としてソフトウェアやサービスを提供してきました。東海支社は、愛知県、三重県、岐阜県、静岡県を主なエリアとしています。
その東海支社がDiSC®を導入したのは2020年のこと。決断の背景には、冒頭で記した課題意識がありました。浅川氏はこう説明します。
「IT業界全般にいえることですが、いままではお客さまのニーズが明確にあり、その要望に合わせて何かを作るのが一般的でした。しかし、これだけ未来が不確定な時代になると、お客さま自身も自社のサービスやシステムをどうすべきか、答えが見えない状況が増えています。結果、私たちは要望を聞いて作るだけでなく、お客さまのビジネスに対してアイデアを出すことが必要になってきました」
未来が不確定な時代。その象徴として浅川氏がたびたび口にしたのは、地方経済への憂いです。
「大都市への人口集約が進む中で、地方の経済は厳しい状況に立たされています。その中で、地域に根差した企業はどのような戦略を取っていくべきか、企業自身もその答えを探している状況といえるでしょう」
東海エリアは製造業の盛んな地域であり、全国的に見ればまだ状況は悪くないともいえます。しかし、浅川氏は「それでも以前に比べれば変化は加速しており、10年先、20年先はどうなるかわかりません」といいます。
「だからこそ、私たちも地方企業の一員として、お客さまにビジネスモデルやサービス改善の提案を行うなど、コンサル領域の業務が求められています。しかし、いままでこういったプロセスを踏んだ経験は少なく、なかなか実践できていないのが実情でした」
どうすれば顧客自身も気づいていない課題改善や付加価値についての提案ができる企業になるのか。ここで浅川氏が注力すべきと考えたのが「組織力強化」でした。とはいえ、組織の改善と上述の課題のつながりが判然としない面もあるでしょう。浅川氏には、このような考えがあったといいます。
「私たちからお客さま企業に提案する形は、いままでに経験のないものです。私を含め、経営層も管理職もノウハウがない。だからこそ、現場は積極的にアイデアを提案し、管理職もそれを吸収する。一体になって答えを考える組織にする必要があると思いました」



「5年で日本一」を目指し誕生した女子ラグビーチーム「PEARLS(パールズ)」
ラグビー界の名将はDiSC®も取り入れる

三重県ラグビー協会強化委員長 齋藤久 氏
DiSC®の活用はスポーツチームでも進んでいます。そのひとつが、三重県四日市市にある女子ラグビーチーム「PEARLS(パールズ)」です。
パールズは2016年に誕生したチーム。立ち上げからGM(ゼネラルマネージャー)を務める齋藤久氏は、高校ラグビー界の“名将”。長年にわたり三重県で高校教員を務め、ラグビー部監督として2つの強豪校を作り上げました。
そしてパールズの創設にあたり、高校教員とGMという「二足のわらじ」で新たな挑戦をスタート。2020年からは高校教員を辞め、GM一本で奮闘しています。
そのパールズでDiSCを導入したのは、創設から5年経った2021年。どんな狙いがあったのでしょうか。齋藤氏とパールズの歩みや、同氏の考えるチーム論・指導論を交えながら、パールズでのDiSC導入について紹介します。
目次
最初から「プロチーム」を構想。5年で100社以上の企業から支援
「自分の生き様がメッセージになれば」と、教員を辞めてGMに専念
齋藤氏がラグビー監督としてのキャリアをスタートさせたのは、1992年から2016年まで勤務した、三重県の朝明高校時代。当時25歳の彼は、ラグビー部のなかった同校でラグビー同好会を立ち上げ、部へと昇格。以降、大阪・花園で開催される全国大会にチームを6度導きました。
2016年に赴任した四日市工業高校では、翌2017年から3年連続で県大会準優勝の結果を残すなど、こちらでも確かな実績を作りました。
そんな彼に、女子ラグビーチーム「パールズ」創設の話が舞い込んだのは2016年。ちょうど四日市工に移ったタイミングでした。パールズは、5年後の2021年に予定されていた三重国体での優勝を目標に結成。三重県ラグビー協会の強化委員長も務めていた齋藤氏に白羽の矢が立ちました。
この話に、高校教員を続けながら新チームのGMに就任することを決断。前例のない兼業でのチャレンジをスタートしました。そして就任当時、パールズのチームづくりに明確なプランを持っていたといいます。
「5年後の三重国体で日本一を取るためにどんなチームづくりをすればいいか、ゴールから逆算してプランを立てました。そこで考えたのは、アマチュアなチーム経営では5年での日本一は難しいということ。最初からプロチームを作ろうと決意し、スポンサー探しを始めたのです」(齋藤氏、以下同)
企業スポンサーの協力を得て、一定の資金でチーム運営を行う。同時にチームのブランドを上げ、地域からの認知や支援を獲得する。こういったプロチームの経営をしなければ、質の高い選手と指導者は集まらない。そう考えて、教員の仕事のかたわら、協賛を募ることに奔走しました。
とはいえ、女子ラグビーは発展途上の分野。理解を得るのは簡単ではなかったでしょう。地道に企業を訪問する日々が始まりました
「最初は、朝明高校時代に後援会を務めていただいた企業の方などにお話しするところからスタートしましたね。『男子のラグビーも素晴らしいですが、これからは女子ラグビーという未開拓の領域に挑みたいと思います。どうか力になってください』と。学校の先生から営業マンになったわけではなく、高校ラグビーでお世話になった方々に、いままでの延長でお話しするような気持ちでした」
その結果、パールズは5年かけて100社を超える企業と、地元自治体の支援を集めるまでに。オフィシャルスポンサーには、地元の有力企業が名を連ねます。
もちろん、齋藤氏一人の力ではありません。パールズに関わるすべての人の活動が実を結び、支援の輪が拡大したのでしょう。
所属する日本人選手は、地元企業の雇用支援を受けて就職。給料をもらいながら活動しています。そして、外国人選手と監督やコーチはプロ契約を結んでいます。「いまはまだセミプロのチーム」と表現しますが、当初の構想に近いチーム体制が実現しています。
地元・四日市の駅や商店街には、パールズの広告や横断幕も。創設5年で地域の顔になりつつあります。チームの成績も右肩上がりで、毎年2〜3月に行われる全国女子ラグビー選手権では、初年度から3年連続で準優勝。2021年には、コロナ禍で変則的な大会形式ではありましたが、念願の優勝を果たしました。

目標だった三重国体は、コロナによって中止の憂き目に。しかしチームは活動を継続し、今後ますますの成長を目指しています。
「パールズだけでなく、他のチームが強くなることも大切です。それが女子ラグビー全体の盛り上げにつながりますから。そういった意味で、他チームを巻き込んだ取り組みも行っていきたいですね」


ポストコロナの働き方と職場・チームのゆくえ 「心理的安全性」で日本企業の足腰を強化する『HRD Next 2021-2022 PROGRAM1 Day4』
早稲田大学准教授
村瀬 俊朗氏
Toshio Murase
1997年の高校卒業後、渡米。2011年にUniversity of Central Floridaから産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)として就労後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。2019年から英治出版オンラインで「チームで新しい発想は生まれるか」を連載中。『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、2021年、英治出版)の解説者。
新しいものを生み出す際には“挑戦”が必要
まず、久保田がDX・社会の変化と求められる組織の在り方について、世界経済フォーラムやマッキンゼー、経済産業省のレポートから、「変化対応組織に求められるのは『チームレベルの文化の変革』であり、その鍵として『心理的安全性』の確保が挙げられている」ことを紹介しました。

ここで久保田は村瀬氏に「そもそも『チーム』とは何か?いま起こっている変化をどのように捉えたらよいか?」と投げかけ、村瀬氏の講演に繋ぎました。
村瀬氏はまず、「コロナ後の様々な変化に対応し、創造性や付加価値を発揮させイノベーションを起こすためには、組織・チームとして何を意識しどのように動けばいいのか、その観点における『心理的安全性』について話していきたい」と前置きしました。
次に、現在の経済環境の不透明さに触れ、マッキンゼーのレポートなどから世界市場はさらに激化し不安定となり、主要事業のビジネスモデルを大きく変える必要性に言及。
そこで、amazon創業者の「実験的挑戦は開発にとって必要悪であり、失敗と開発は表裏一体」といった言葉を紹介し、新しいものを生み出す際には“挑戦”が必要であり、即ち失敗を受け容れることの必要性を話しました。
この流れで、一般的な改革がうまくいくのは30%以下で、DXによって改革に成功した企業は16%といった、イノベーションには失敗が付き物であることを示す調査結果に触れました。
イノベーションは出合ったことのない組み合わせで起こる
ここから、イノベーションに関する考察に入りました。「人間が課題解決を図る際、頭の中ではいろいろな情報を組み合わせています」と村瀬氏。この組み合わせがイノベーションの“種”となることを、トランクにキャスターを“組み合わせ”たことでスーツケースが発明された例を取り上げました。これで人は重い荷物を持って運ばなくても済むようになったのです。
アイデア探索に求められる「高い頂を探索する」概念を説明した後、新幹線のパンタグラフにフクロウの羽根の端部の形状を取り入れることで、風切り音などの騒音を30%減少させた事例を紹介し、「このように、イノベーションとは出合ったことのない組み合わせを見つける模索の旅」と説明しました。
次に、そうした発想をどのように行うかについて、「専門性の多様性」と「価値の実現力」という2軸の図で解説。出合ったことのない組み合わせの模索において、専門性の多様性が高度であればあるほど、価値の実現力としての失敗からメガヒットまでの振れ幅が大きいこと、逆に慣れ親しんだ情報の組み合わせでは、結果の予測がつき、成果物としては大成功にも大失敗にもならないゾーンに落ち着くことが説明されました。つまり、「イノベーションとは、我々が出合ったことのない組み合わせでしか起こすことはできず、それは膨大な失敗を伴うものである」と整理しました。

“連携”による創造性の発揮
そこで、こうしたイノベーションを起こしていくうえでの「チーム」の重要性に話が移りました。複数の視点の衝突が思い込みを崩し新しい思想を獲得する糸口となることや、こうした組み合わせの幅が増えると失敗も増えるが成功度も高まること、個人よりチームのほうが複眼的に組み合わせの弱みを把握し失敗を防ぐことにも繋がることを指摘。チームワークこそが創造性の装置であることを説明し、チームの多様性が新規事業の収益性を高めたとのBCGのレポートにも触れました。
ここで、「チームとは何か」を考察。「価値のある目標や目的を共有する運命共同体」「目標・目的達成のために、情報共有や作業連携が必須」「メンバーの業務は互いに依存する」「メンバーの役割が決まっている」という定義を説明しました。
こうしたチームをうまく活用することで創造性を発揮させやすくなるものの、そこでは“連携”による創造性の発揮が困難になると言います。人には仲間と部外者を分ける心理的作用が働き、知らない人、知らない知識を持っている人とはうまく作業ができない習性があるからです。エンジニア部門とマーケティング部門の分断例が示されました。
また、アイデアの価値は一目ではわかってもらえない“自前主義”の問題もあります。Twitter社で最初にハッシュタグを提案したエンジニアに対して「そんなもの使われない」と言われたケースや、アート作品の価値はよくわからないものという例が話されました。
また、コーラと無名のドリンクの写真を並べ、どちらを選ぶかを問うとたいていがコーラを選ぶという、「馴染みやすさは心地よさ」という心理に触れ、「新しいものはよくわからず、馴染みのあるものに引っ張られて創造性がうまく働かない」というメカニズムについて解説しました。

“多様な意見の表出”が重要
そこが、チームをつくっても新しいものを生み出せない弊害になるとした上で、“連携”に代わる“多様な意見の表出”を通じた創造性の発揮の必要性について話しました。
ここでようやく心理的安全性が登場。なぜならば、チームとしてイノベーションを起こすメカニズムから説明したほうが、心理的安全性についての理解が深まるからです。
多様性のあるチームをつくっていろいろな意見が出されても、反発されたりするとスタックしてしまうものの、心理的安全性が担保されていることにより“多様な意見の表出”が行われ、イノベーションの創出に向かいやすくなるということです。
ここで心理的安全性について解説。「学術界では20年以上前から発表されていた理論で、Googleのプロジェクトが取り上げたことからビジネス界で一気に広まったものです。Googleは「心理的安全性」が創造性を向上させる重要なメカニズムであることを明らかにしました。
イノベーションに不可欠な“多様な意見”を言ったとしても、疑問視や冷笑されるといった雰囲気がないことが重要であり、そのことでチーム内に多様な観点が共有されることがイノベーションへの第一歩となるからです。

イノベーションのプロセスに必要な「安心感」と、「声を上げる」“技術”
もう1点重要なこととして、「失敗と改善」について話しました。ユニリーバの粉末状の洗剤の製造工程で、原料の液体を噴出し熱風乾燥させる際のノズル穴が目詰まりしない形状を模索するのに、45世代のモデルと449回の失敗を重ねた例を挙げました。
次に、心理的安全性を発見したエドモンドソン教授が、様々な失敗が起こる病院でデータを取ったことに触れました。病院での失敗は、患者の命に直結することから責任逃れのために隠ぺいに結び付きやすい。しかし、組織で同様の失敗が続けて起こるのは、個人ではなく組織に問題がある。これが隠蔽されると組織として改善する機会が失われる。そこでエドモンドソン教授が病院の心理的安全性と事故の相関関係を調査すると、心理的安全性が高まると事故の報告件数が増え、組織が共有することで事故の減少に繋がったことから、心理的安全性の重要性が立証できたわけです。
「では、心理的安全性が担保されれば声を上げさえすればいいかと言えば、一概にそうとも言えません」と村瀬氏。実際の伝達や、心理的安全性の確保、良いチームワーク実行には“技術”が必要だからです。同じ「声を上げる」のでも、何を誰にどのように伝えるかで伝わり方は全く変わります。
また、イノベーションを創造するプロセスでは感情のぶつかり合いも起こります。自分主体で考えることで他者を攻撃するようなことがあれば、心理的安全性は破壊されてしまいます。そこで、感情が高ぶった時は冷静に「相手の世界観が違う」と捉えたり、自らの感情が高ぶっていることの理由を振り返る“技術”が必要です。
そこで重要となるのが、リーダーの責務。メンバーが知りたいチームのとってのゴールやミッションの重要性を伝え、外からはわからないイノベーション創出活動を守ることが求められます。
チームワークは、システムとして行動⇒分析⇒学習⇒行動、のサイクルを回して行っていくもの、と整理して第1部の講演を終えました。

リーダーの責務
ここで久保田は視聴者から質問を受け付けた後、村瀬氏に「心理的安全性は最近よく聞く言葉ですが、安易に使われ誤解されているケースもあるのでは?」と質問。村瀬氏は「心理的安全性はあくまでもシステムの一部。『何でも話せる組織をつくろう』ではなく、何のための組織であり、その目的を達成するためにいろいろな議論が行えることが重要であり、そのために心理的安全性が重要であるという理解が必要。心理的安全性を維持するのは簡単ではないので、そこがしっかり共有できていないと中途半端に終わる」と指摘しました。
ここで、視聴者の「リーダーが手一杯の時にそれができる余地はあるのか?」との意見に対し、村瀬氏は「先のことを考える必要から、リーダーはその時間を捻出する努力が必要。プレイングマネージャーが仕事をメンバーに任せ切ることができず、時間が捻出できないケースが多い。時間をつくることはリーダーの重要な業務と認識すべき」と指摘しました。
また「心理的安全性のほかに大切なことは?」との視聴者からの質問に、「メンバーの間にゴールや役割分担、優先順位が不明確で納得し切れていない場合が多くあります。ゴールに向かう上で、メンバーの意識が拡散的にならないようそこを明確にすることがリーダーの責務」と村瀬氏は回答しました。


マイクロソフトはいかにしてカルチャー改革を実現したか 新しい時代における組織・人材戦略を先駆者と共に考える『HRD Next 2021-2022 PROGRAM1 Day3』
環境変化が更に加速する2020年代。企業が直面する変化の第一は、テクノロジーの進化があります。そこで、このセッションではデジタル・テクノロジー企業の雄であるGAFAMのそれぞれの人事戦略から、人材を活かすマネジメントを掘り下げました。優秀な人材をいかに惹きつけて、育てているのかについての共通事項を考察。特に、マイクロソフト社の人材マネジメントについて、ゲストスピーカーによる同社の最新人事施策の紹介と考察から、これからの日系企業における人事戦略の方向性についての議論を行いました。
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日本マイクロソフト株式会社 人事本部
HRコンサルティンググループ マネージャー
堀江 絢氏
June Horie
2009年家族と来日、専業主婦、大学職員、人材アセスメント会社のコンサルタントを経て、大手グローバルスポーツメーカーに転職、主に組織開発、人材育成とタレントマネジメントの業務を担当。2020年2月に日本マイクロソフトに入社、中途新入社員のオンボーディング、新卒社員研修、マネージャー能力開発などのプログラムをリードしながら、社員とマネージャーにコンサルティングとコーチングを提供する。
必要なスキルの変化
まず、水谷が企業におけるマクロ環境やデジタル化、サスティナビリティ、働き手におけるライフシフトやキャリア観の多様化、必要なスキルの変化といった環境変化を概観。「双方に大きな影響を与えているのは、デジタルの進化」と整理しました。
この流れで、2000年と2020年の時価総額ランキングを比較。2000年に1位であったゼネラル・エレクトリック(GE)は100位未満となり、GAFAMがベスト10に顔を揃えていることが紹介されました。GAFAMのビジネス内容を整理し、サービス領域は異なるものの、“プラットフォームビジネス”“生活に浸透”“ビッグデータ”という共通点があることが説明されました。
次に、視点を変えて働き手に求められるスキルに言及し、Day1でも紹介された「高度な認知スキル」「社会的・感情的スキル」「技術的スキル」の重要性を再確認。「デジタルスキルとともに、これら3スキルの需要が高まっています」と話しました。加えて、GAFAMにおけるリスキル投資を説明。Microsoftの失業者2,500万人への無料プログラム提供や、日本マイクロソフトにおける人材育成施策などが紹介されました。
GAFAM同士の学び
ここで、水谷は堀江氏に「マイクロソフト社における日本市場の位置づけは?」「GAFAM同士で学びあう、というケースはありますか?」と質問。
1つめについて、堀江氏は「Microsoftにとって日本は大きな戦略的マーケット」と前置きした上で、決算期である7月にオンライン行われた全社イベントのエピソードに触れ、「CFOのプレゼンテーションには何か所も日本マイクロソフトの名前が出てきて、そのパフォーマンスの高さが協調されました」と紹介しました。
2つめについては、Microsoftグローバルの全マネージャーに向けたトレーニングで、Googleによって広められた「心理的安全性」がテーマに取り上げられたことが話されました。
次に堀江氏は、GAFAMにORACLEを加えた6社のカルチャーの風刺画を示し、Microsoftは事業部門がサイロ化し、それぞれがピストルを向け合っている様を紹介。「昔のこういうカルチャーは良くないと認識し、カルチャーを変えてビジネスの成長に繋げてきました」と話しました。

ここで水谷は、マイクロソフト社に注目する理由として「歴史がある」「苦難の克服」「(組織人事については)知られていない」と説明。堀江氏のプレゼンテーションに繋げました。


経営の未来を創る人材データ活用
新しい時代における組織・人材戦略を先駆者と共に考える
『HRD Next 2021-2022 PROGRAM1 Day2』
HRテクノロジーという言葉が市場に認知され始め、ピープルアナリティクスに取り組む企業が増えつつある中、経営/事業に役立つ真の意味でのデータドリブンHRを実践できている企業は極めて少ないのが実情です。そこで、本セッションでは事業構造の根本的な変化が到来する時代において、戦略を実行に繋げるデータドリブンな組織・人材戦略によって事業発展に貢献してきた先駆者とのディスカッションを通じ、新しい時代の組織・人事戦略を考察。経営者のためのデータドリブン人事の時代の到来を見通すセッションとして、ゲストスピーカーとして、株式会社ブレインパッドの東一成氏をお招きして実施されました。
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株式会社ブレインパッド プロダクトビジネス 本部 本部長
東 一成氏
Kazunari Azuma
大学卒業後、鉄道系の情報システム会社に勤務の後、外資系のアナリティクスツール会社にてプリセールス、プロフェッショナルサービスの部隊でデータマイニング、BI、BSCなどの導入支援を担当。
その後、海外から機械学習システム、MA、分析プラットフォームなどの日本市場への展開を支援し、ビジネス立ち上げ、プリセールス、トレーニング・導入支援、サポート、日本語化などを担当。
現在もMA、拡張分析、ソーシャルメディアアナリティクス、分析プラットフォームに関する国内外のソフトウェアの展開や調査を行っている。
過去にテレコム通信、空港、百貨店、小売・流通、通販、カード、証券、商社、サービスなどの様々な業種への機械学習やMAなどの分析システム導入の経験・実績を持つ。
株式会社ブレインパッド
https://www.brainpad.co.jp/
データ活用を“DX”の話題の観点で考える
まず、水谷が「バリューチェーン」の図を用いて、購買、製造、出荷・物流、マーケティング・販売、サービスの各事業活動におけるデータ活用の広がりを説明。そこで、東氏に「企業における代表的なデータ活用事例はどんなものがありますか?」「その際に活用されている新しい技術は?」と質問。
これを受け、東氏はまず、データ活用について国のDXに関わるレポートなどを基に、まずはシステムの話から入りました。

同レポートには、「企業のDXには、いろいろな形のシステムが必要」と記載されています。そのシステムとは、社内情報の記録・維持・管理が目的の「SoR」(System of Record)。人・企業・集団を繋げる仕組みの「SoE」(System of Engagement)。そして今言われているのは、「SoI」(System of Insight)。大量のデータが蓄積されているSoRとSoEから、AIの活用によって意思決定の“支援”のための新たな洞察を導出するシステムです。マーケティングにおいては自動化が進んでいますが、営業における優良顧客とのリレーション構築や、人材育成など人間の内面を理解しての意思決定は自動化が困難。そこで、意思決定に役立つ何らかの洞察を得るために必要とされているものです。
データ活用における機械学習のバランス
この流れで、東氏はデータ活用における機械学習のバランスに言及。データと機械学習の知識や精度が重要な「当たればよい」天気予報や顔認証から、「当てることへの比重が高い」レコメンドなどのリアルタイムパーソナライズ、「当てるだけでなく、その理由も重要」な広告などのターゲティング、そして、確率より「むしろ理由が重要」な退職など人事領域の分析まで、データ活用の目的はグラデーションになっています。「こうなると、AIも通用しない領域があることがわかるようになってきました。このように、広範な領域においてデータが活用されるようになった今、どういった目的でデータを活用するのかをより明確にしてツールを用いる必要があると言えます」と東氏は話しました。

ここで水谷は、東氏の作成資料にある「実はこの(理由が重要な)分野に注目しています」とのコメントについて質問。東氏は「マーケッターや経営者に『このユーザーに来月DMを送信すると商品を買う確率が高い』と説明しても、『すぐやろう』という人はいません。『なぜなのかを知りたい』という人ばかり。そこをうまく説明できないと、社内にこの結果を展開し人を動かすことができないからです。広告でターゲティングされる“理由”がわからなければ人は納得できないのも同様です」と説明しました。水谷は、「そうした領域では、データに現場の業務知識や説明力がより色濃くブレンドされる必要があるのだと思います。そこでは、企業やマーケッターの経験や価値観がより重要になるということでしょうか?」と質問。「いきなり人事データを渡されて『いい社員を探して』と言われても、探せるものではありませんね。理想とされているハイパフォーマーは誰かを聞いてからでなければ、データ分析してもわけがわからないと思います」と東氏は回答しました。
HR領域におけるデータ活用の実態
次に、水谷はHR領域におけるデータ活用の実態を説明。まず、米国のHRテクノロジー市場の傾向を示し、「事業戦略の実現を担う人事戦略に活用されていくとの見通しがポイント」と話しました。日本では、2019年度で約1,119億円の市場があり、現段階で449種類のサービスを確認。2020~23年の年平均成長率は13.7%という成長市場であることが説明されました。
そこで、HRテクノロジー活用領域を整理。求人、採用、配置・登用、組織・人材開発、労務・評価に分類したところ、求人領域で最も適応が進み、配置・登用と組織・人材開発という高度な機能が必要な領域は、今後加速化すると分析しました。

また、現在の人材データ分析としては、管理職比率や労働時間などの単純集計や指標把握、属性ごとのグループ間比較や経年比較に留まるケースが大半であることを示しました。
ここで、水谷は東氏にHRテックついてどう捉えているかと質問。東氏は、HRテックベンチャーが伸びている現状認識や、自社の提供しているMAツールが人材紹介会社に活用されていることに触れ、「たくさんの企業とたくさんの人材のマッチングや、付随して日々発生する連絡業務を、データやツールを活用して効率化させたいとのニーズがあります」と話しました。
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組織開発とタレントマネジメントに活用するDiSC
内製で素早く組織作りの基盤をつくる、成長企業の事例
株式会社Speee様/株式会社ビズリーチ様
HRDグループが主催するアセスメントフォーラムオンライン2020「ReStart」。今回のテーマは「組織開発とタレントマネジメントに活用するDiSC」です。株式会社Speeeの坂本様と株式会社ビズリーチの鈴木様をお招きしてお話を伺います。事業環境の変化スピードがますます速くなる時代に、いかにスピーディーに組織づくりをしていくかということは、大きな課題です。様々なバックグラウンドを持って集まった従業員の間に、いかに短期間でコミュニケーションの共通言語を築き、カルチャーを強化するか。時代の流れをつかみ、成長著しい両社の勢いをそのまま感じることのできる対談となりました。HRDグループの久保田がモデレーターを務めました。
組織の成長とトップの一言~内製化での導入・浸透フェーズ(株式会社Speee様)
普段一緒に働く部署単位でのワークショップ(株式会社Speee様)
坂本 明美 氏
株式会社Speee 人事部 部長
新卒でリンクアンドモチベーション入社。クライアント企業のコンサルティング営業に5年従事。2009年株式会社Speee入社。人事全般の立ち上げに従事。現在は全社の組織開発を担当。
鈴木 翔 氏
株式会社ビズリーチ
HRMOS事業部 プロダクト企画部プロダクトマーケティングマネージャー
ソフトバンク株式会社、ワークデイ株式会社を経て、株式会社ビズリーチに入社。人事企画、組織開発、HRIS(人事管理システム)のマネージャーをつとめた後、HRMOS事業部にてプロダクトマーケティングマネージャーを務める。
久保田:DiSCアセスメントをコミュニケーションの共通言語として使い、組織文化をつくっていくプロセスを、導入・浸透・活用の三つのステップでお届けします。導入というのは、DiSCとは何かを知って、自分と他者との違いや自分自身は何が欲しいのかを知ることです。浸透のフェーズでは、全メンバーが共通認識を持つようになります。そして活用フェーズでは、ビジネスシーンでの活用を深く知り、行動変容、関係性の変化、成果につなげていきます。それぞれステージが違う2社に事例共有いただきます。
まずは導入から浸透に入るフェーズについて、Speee社の事例を発表いただきます。坂本さんお願いいたします。


DiSCとは付き合いが長く、以前は、外部講師に来ていただき研修を実施するスタイルでした。毎月やっていたわけではないので、全員の共有言語になりきれないところが反省点としてありました。そして組織が成長し、職種や人も増えて多様化してきた中で、DiSCを軸にそれぞれのスタイルを活かし合う人材育成、組織開発をしていきたいと内製化を進めました。社内にファシリテーターがいることで、「来週このチームで1つやろう」あるいは「DiSCを中心としたペアワークをやろう」など組織内でフレキシブルに取り組めていることができるようになりました。
久保田:DiSCを導入する上で代表の大塚さんはどのように思われていますか。
坂本:1年前、弊社メンバーがDiSC認定ファシリテーター資格を取得するきっかけとなったのは、代表の大塚から久しぶりにDiSCを受けさせたいとチャットで言われたことでした。その際、社内に資格保持者がおらず、DiSCを実施することができなかったのですが、代表がそのタイミングでふと「やろう」と言ったことが再び取り組むことになったきっかけとなりました。他の様々なツールと比較検討しましたが、DiSCはわかりやすく、一度学べば浸透しやすいなど、もっとも優れた点が多く、導入に迷いはありませんでした。
坂本:浸透は現在進行形で、働く仲間とお互いのスタイルを知っておくことが大事なので、各事業・職場単位で、約3時間のDiSCワークショップを開催しています。

鈴木:ワークショップでは、意図的に上司部下を組み合わせるのでしょうか。
坂本:グループ構成はスタイル毎ですので、同じグループに新卒と部長や課長がいることもあります。普段から職場の風土として、発言するときには「誰に言うか」より「何をテーマに言うか」を大事にしていますので、組み合わせやチーム分けについてはあまり気にしません。
久保田:ビズリーチさんとアプローチが違うので、面白いことだと思います。その辺りは後ほどお話しいただきます。

坂本:新卒に関しては、担当するメンターとのペアワークを実施します。今年の新卒は、コロナ禍の状況もあり、より手厚くオンボーディングをやりたいと思っていました。ワークプレイスプロファイル、つまり本人のDiSCの結果について詳細にまとめたものを、新卒と最初に業務を教える一番密な人であるメンターと交換し合って、ペアワークで互いの特性の理解を図るものです。
メンターは、熟練の上長というよりは2~5つ上の先輩であることが多く、互いの特性を知る上では、かなりスムーズに初期段階のオンボーディングができたと思います。新卒はまだ一人も辞めていないので、現段階ではオンボーディングはだいぶ効いており、そこでDiSCには非常に頼りになっています。内製で、18名程度で3時間の効果的なDiSCグループ研修を行うためには、どうしたらよいかを考えながら設計しています。
鈴木:なぜ3時間なのでしょうか。
坂本:一般的に外部にお願いすると1日から1日半の研修になりますが、内製だと短時間でも実施できます。3時間という理由は2つあり、1つは午前の3時間、午後の3時間というようにフレキシブルに時間を確保しやすいので、現場の合意を取りやすいことです。私は子供がいて時短勤務でもあるので、その時間内に研修ができるよう設計していることもあります。もう1つは、事前に回答して手に入れたレポートを読み込んで考えてから研修に臨む従業員も多いので、かなりショートカットして効率的に取り組めるから、という理由です。その点は、協力して取り組んでくれている従業員に感謝したいと思います。

久保田:坂本さん、導入までの経緯や詳細の共有、ありがとうございました。まず導入して、それから浸透させる、でもそれは、DiSCをやること自体が目的ではなく、組織をつくることがゴールにあり、その先何のためにやっているのか、ということが重要です。ここからは、実際に実践されているビズリーチさんにお話をお願いします。

いま、人材育成・研修のプロフェッショナルに求められること
求められるのは「地方局のラジオパーソナリティのスキル!?」
オンライン研修に対応するプロフェッショナル3社による知見共有
株式会社健育社様/株式会社ウィルコネクト様/株式会社メンター・クラフト様
HRDグループが主催するアセスメントフォーラムオンライン2020の中で、具体的なアクションを伴った再出発を考える「ReStart」。今回は「いま、人材育成・研修のプロフェッショナルに求められること」というテーマでお届けします。2020年は企業の人材育成も、COVID-19の影響を大きく受けました。研修の場所が教室からオンラインに変わっただけでなく、学びそのもののあり方も大きく変化しています。そこでこの度、人材育成のサービスを提供するプロフェッショナルの立場である3社によるパネルディスカッション方式で、その最前線を共有していただきました。モデレーターはHRDグループの久保田です。
株式会社メンター・クラフト
常務執行役員
川崎製鉄(現JFEスチール)で新素材の材料設計・製造プロセスの研究開発に従事。同社在籍中にMBA(Bond University, Australia)取得。現在は、管理職から中堅社員クラスへのマネジメント研修をはじめとして、 ロジカルシンキング、コーチング等幅広く研修を担当。特に技術・研究者向けにイノベーションを起こしやすくするロジカルイノベーションや、コミュニケーション技術、また技術者のためのロジカルプレゼンテーション、エクセルを活用したビジネス統計分析等。
株式会社ウィルコネクト 代表取締役
株式会社リクルートにてデジタルコンテンツ配信プラットフォームの開発、オンラインゲーム会社の設立、新規事業開発部マネジャーとして情報誌のオンライン化の責任者として従事。2008年より株式会社ネクスト(現株式会社LIFULL )にて経営企画部長、人事部長に従事し、新規事業戦略の策定、人事制度改革や社内大学の立ち上げを行う。2012年、株式会社ウィルコネクトを設立し、企業研修の企画運営、研修プログラムのオンライン化の支援、経営・人事コンサルに従事。米国CTI認定プロフェッショナルコーチ。
株式会社健育社 代表
外資系製薬会社学術部⾨、マーケティング部⾨勤務の後、2006年9⽉株式会社健育社を設⽴、医療⽤医薬品に関連する雑誌・記事・論⽂、製薬企業の資材原稿作成業務に従事。オンラインによる情報提供活動のニーズから、オンラインMRのためのコミュニケーション研修を開始。アナウンサーと共同で「声を届ける」発声の基礎から、オンライン情報提供の組み⽴て⽅、対話スキルなどを提供。
久保田:リモートワークやデジタルトランスフォーメーションが浸透していく中、密を避けるあまりに人との心理的距離まで遠ざけてしまうのは、本来のあるべき姿ではありません。より良い成果創出のために、人事や人材育成のプロフェッショナルとしてどのように支援できるのか、今は立ち止まる時ではなく、それを考えるタイミングだと思います。まずは、新型コロナによって集合研修を選択できなくなった人材育成の現場で何が起こったのか、そしてその状況に対応する新しい研修様式について、まずはメンター・クラフトの河野様にお話をいただきます。

河野:メンター・クラフトの河野です。よろしくお願いいたします。まずは、新型コロナ発生以降の経緯をご説明します。2020年の1月頃から新型コロナが流行し始め、4月以降になると集合研修はほとんどなくなってしまいました。その後、夏前からオンライン研修が増え始め、オンライン研修の比率が全体の8割を占めるようになりました。オンラインでの研修に取り組み始めた当初は、知識も設備もなくノウハウも蓄積されていなかったので、どうすればいいのかわからず非常に戸惑いました。何もないところで自分たちはどうするのか、お客様にどう対応するのかと非常に悩みましたが、「とりあえずやってみよう」とエンジンをかけたのが2020年3月、4月の頃のことです。
オンライン研修でも集合研修でも、最終的な狙いはどちらも同じです。お客様の経営、人事、ご担当者が考えられている「組織や人材がこのようになってほしい」という目的がありますし、受講者自身が「このスキルを身につけたい。もう一歩成長したい」という思いがあります。それに対して私たちがどのようにして応えられるか、そこが非常に大事なところです。
私たちが大事にしているのは、学びに対してワクワクドキドキすることです。「もっと学びたい、もっとこれを出来るようになりたい」と意欲的に取り組んでいただけるよう、研修を設計しています。具体的には、講師から伝える部分(インプット)を3割、みなさんでディスカッションをして気づきを導き出す部分(アウトプット)を7割としていますが、それをオンライン研修でどのように実現するのか、明確な答えはないながらも、お客様と共に考えながら実行していきました。

河野:オンライン研修で非常に重要なのは、受講者のサポートです。初めて受講する方は「このオンラインソフトはどう使うのか」「どのような機能があり、どのようなことが起こるのか」「普通にログインしてただ受けていればそれでいいのか」と心配する場合があり、そのソフト自体のトレーニングの必要があります。研修の当日にトレーニングすることもありますし、事前にお客様のほうでトレーニングしていただく場合もあります。事前にお客様やエージェントさんと打ち合わせをして設備や状況などの環境整備をしてから入ります。
オンライン研修では、現場対応も重要です。集合研修の場合は、現場で何かが起こったときにも講師が見ているので、その場で受講者と話をしたり事務局と連絡を取り合ったりして対応することができます。しかしオンラインでは、直接対応することはできません。そのために必要なことはいろいろありますが、まずは「ディレクター」の存在が重要になります。例えばZoomで研修を実施しているときに、「画像が映らない」「音声が途切れた」「画像が止まった」「Zoomの部屋から追い出されてしまった」などのトラブルが発生します。それに対して、迅速かつ冷静に対応できる人が必要です。その人は研修内容を知っている必要があり、講師がやりたいことの意図もわかる、そしてオンラインソフトがどのような仕組みで動いていて、どのトラブルのときに何をすればいいのかをきちんと理解しているなど、とても高いスキルが求められます。このようなディレクターは、あらゆる運営システムにおいて欠かせません。
久保田:実際に、ディレクターはどれくらい確保できていますか。
河野:基本的には弊社の中で確保するようにしています。お客様によっては、自社の中にディレクターがいるからやらせてほしいという場合もありますし、エージェントさんにサポートをしていただく場合もありますが、比率で言うと、弊社側で対応するケースが多くなっています。講師の意図をしっかり理解し、スピーディに対応する必要があるので、仮に外部の方がされるとしても、事前にしっかり打ち合わせをしないと意思疎通が難しいと思います。
初期の頃は「必要なものをそろえてとにかくやる」という状況でした。オンライン研修に必要なのはパソコン、ソフト、通信回線です。オンラインでもライブ感を出したいと思っています。テレビのように一方通行ではなく、相手の反応を見てこちらも発信を変えたいので、ホワイトボードの実物を自分の後ろに置いて、書きながら受講者に話しかけたり、場合によってはパワーポイントの上やオンラインホワイトボードに書いてみなさんから意見を募ったり、とにかく行ったり来たりを行います。
オンライン研修と集合研修では、どちらを選ぶべきか悩むお客様もいらっしゃいます。迷われたときには判定表を使い、どちらを選ぶか判定していただくようにしています。この判定表は弊社のホームページに載っています。これをたどっていくと、必要な条件や備品、キーワードも出てきますので、ぜひ参照していただければと思います。

オンライン研修の場合、インタラクティブな時間が必要である一方で、参加者の表情が読み取りづらいため、講師側のファシリテーションスキルに加え、プログラム自体も変更する必要があります。理解を深めるために、基本的に時間をかけて行う必要があり、集合研修と比べて2割ほど中身を減らすのがベターです。また研修当日も丁寧にインストラクションをして、相手からの反応を受け止めて、それにリアクションをすること、そして突発トラブルにも落ち着いて対応することが大事です。
久保田:河野さん、ありがとうございました。では次に、バーチャルでの人材育成のメリットとデメリット、さらには今後の人材育成のあり方について、今さんからよろしくお願いいたします。

バーチャルワークプレイスにおけるEverything DiSC®による組織文化形成/GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社様
HRDグループが主催するアセスメントフォーラムオンライン2020「ReStart」。今回のテーマは「バーチャルワークプレイスにおけるEverything DiSC®による組織文化形成」です。急激に職場がバーチャル化する今、組織とそこで働く人の関係性も大きく変化しています。GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社の田中様に、新型コロナの前から先行してリモートワークを推進し、イノベーティブな組織カルチャーの醸成に取り組むなかで、Everything DiSCを有効活用している事例を共有していただきました。モデレーターはHRDグループの久保田が務めました。

田中:私どもGMOグローバルサイン・ホールディングスは、コトをITで変えていくというミッションのもと、今課題になっている電子印鑑をはじめ、セキュリティ、クラウドインフラなどのサービスやソリューションを提供しています。元々はGMOクラウドという社名でしたが、年(2020年)9月に社名変更をしました。ホールディングスという社名からもお分かりかと思いますが、私どものグループ会社は何社かグローバルにございまして、そこで今、カルチャー変革に関する取り組みを行っています。
私は、普段はいわゆる人事の仕事と、CCO室で室長をしております。CCOというのは、チーフカルチャーオフィサーです。CCOやメンバーと共にカルチャー形成に取り組んでいます。組織文化は、意図せずとも自然にできていくものです。時代、事業、環境の変化に柔軟に対応していけるように、そして、なくてはならない会社として存続させていくために、事業からではなく、文化・カルチャーから変えていこうという取り組みを行っています。
本日はカルチャー変革への道のり、組織マネジメントにEverything DiSCを実際どのように使っているかを、3つのパート、つまり、カルチャー変革の取り組み、具体的な使いどころ、今後の取り組み、に分けてお話をしたいと思います。
まず、カルチャー変革の取り組みについてお話しいたします。
プロジェクトチームを立ち上げたのは2019年。今年で2年目、2021年が最終年となります。実際には、最初から「カルチャーを変えよう」とやっていたわけではありません。人事や事業の課題に取り組むなかで、人事主導で進めるのではなく、会社全体でカルチャー変革という名のもとで進めた方が良いのではという話に至り、どんどん巻き込んで大きくなった結果、準備の2年間も含めて全体で5年間におよぶプロジェクトとなりました。
私たちが目指すのは、2022年までに従来の企業文化から新しい企業文化に変えていこうというものです。文化というのはなかなかつかみにくく、見える化しづらいところがありますが、7Sという、元々はマッキンゼーのフレームワークを使い組織のカルチャーを共通言語化しています。さらに企業文化におけるパートナー、すなわち社員が新しい組織文化のなかでどうあってほしいか、新たなパートナー像を定義しています。
7Sのフレームワークを使った実際の定義を一部ご紹介します。
まず価値観ですが、私たちがいちばん大切にしているミッションやビジョン、バリュー、コトをITで変えていく、ビジョンはone&1st、バリューはワクワク、という言葉を掲げています。組織構造については、ここがDiSCの使いどころなのでキーワードにもなりますが、上下関係を伴う階層がない組織ということを、はっきりとうたっています。マネジメントがなくなるとは決して思っていませんが、マネジメントだけをする管理職はなくしていく構造です。ピープルマネジメントは、できるだけセルフマネジメントや仕組みに置き換えることを考えています。社風・スタイルは、価値観や理念を共有するパートナーの多様性を相互に受け入れていく、このようなカルチャーの全体像となっています。


DXにおける組織と人材を問い直す ~先進事例から考えるDXに必要な人材の特質と組織戦略~
ReThink Day5 イベントレポート
HRDグループが毎年開催しております「Assessment Forum Tokyo」、今回はオンラインに形を変え、コロナ禍に向き合う新しい未来のための価値あるコンテンツを提供する場として開催されました。 経営戦略やDX、グローバル人事など、より広い視点から組織・人材マネジメントについて問い直し、再出発するための一連のデジタルイベントとして多く方のご参加を賜りました。
ReThink第5回目は、「DXにおける組織と人材を問い直す」というテーマで、株式会社ブレインパッドの関口朋宏さんにお話をうかがいます。ナビゲーターはHRDグループの韮原祐介が務めます。
関口 朋宏 氏
株式会社ブレインパッド 取締役 ビジネス統括本部長
大手外資系コンサルティングファームに新卒で入社。戦略グループのシニアマネジャー等を経て、株式会社ブレインパッドに入社。データ分析を起点とした事業展開に経営陣として携わる傍ら、DX推進のアドバイザーとして、業界を問わずさまざまな企業を支援。
【株式会社ブレインパッド社】
ブレインパッド社は、2004年の創業以来、データによるビジネス創造と経営改善に向き合ってきたリーディングカンパニーです。これらに関してお困りの際には、気軽にご相談ください。
ホームページ:https://www.brainpad.co.jp/
韮原:それでは、私から現状についてお話をしたいと思います。コンサルティング会社のマッキンゼーが、世界でデジタル化がどれだけ進んでいるかについて出した「デジタル革命の本質: 日本のリーダーへのメッセージ」(2020年9月)というレポートがあります。各国でコロナ感染が拡がった後にどれだけデジタル化が進んだのかについての調べによると、オンラインストリーミングなどエンターテイメント、仕事のための会議などのコミュニケーションを中心にデジタル化が進んでいます。特にアメリカやインドにおけるデジタルサービス活用がコロナによって激変した様子が出ているのですが、日本はあまり進んでいない、という調査結果が出ています。
コロナ以後において、各国で一番利用が増したのは、オンラインストリーミングサービスの利用です。アメリカやインドで40%以上、イギリス、ドイツでも30%以上増加していますが、日本では20%未満。飲食店の宅配サービス、仕事のためのビデオ会議なども、日本以外の各国で20~40%ぐらいの増加が見て取れますが、日本ではなんと10%未満の増加です。
調査の母集団についての疑義を投げかけたくもなりますし、マッキンゼーがこれを使ってビジネスをやろうしている背景を差し引いても、各国比較で日本は遅れているということになっています。
そして、デジタル変革に関する調査もあます。デジタル変革は、通常の変革よりも難しく、成功したケースは16%しか存在しないと報告されています。特に製造やエネルギー、インフラ、や製薬などのトラディショナルな業界においては、成功率は4~11%に留まるそうです。残りの9割近くは、デジタル変革にトライしたけれども上手くいかなかったということになります。
グローバル企業の経営者にインタビューをしてみたところ、人材や組織面に問題意識を持っているということです。「シニアマネジメントのフォーカスと文化」「デジタル・テクノロジーへの理解不足」「人材の欠如」「組織」の問題と、失敗の要因が続いています。「ITインフラの欠如」や「デジタルと従来の対立」「データの欠如」という項目ではなく、やはり問題意識のトップに上がっているのは、人材や組織に関する部分です。本日は、この部分を問いて解いていきたいと考えています。
では関口さん、そもそもDXとは何かということから教えてください。また、進めていくうえで人材と組織の課題が大きいという声が挙がっていますが、実際に各企業で推進していくにあたりどのように感じていらっしゃるでしょうか。
関口:改めまして、ブレインパッドの関口と申します。よろしくお願いいたします。先ほどのマッキンゼーのレポートは、結構悲しいですね。こんなにオンラインも使っていてスマートフォンも使っている、Amazonや楽天などを使う人もたくさんいるにも関わらず、レポートではあんなに低いというのはどういうことなのでしょうか。
また、先ほどありました人材の話も、経営陣の課題となることが多いですね。トップのコミットメントが不足していると言いますが、先ほどのレポート結果で面白いと思ったのは、「シニアマネジメントのサポートの欠如」ではないとありますがフォーカスはしていないという点です。
私たちはブレインパッドでデータ分析をテコにしていろいろとやっていますが、その現場で見ているものをお話ししたいと思います。
デジタルトランスフォーメーション=DXとなりますが、トランスフォーメーションだということが今回の大きなテーマだと思います。
私たちは半年前、300名以上の方々を対象に、「5つあるDXのうちどれを実施しているか。またそれは成功しているか」という調査をしました。3割以上の方が何かしら行っていて、オペレーションのデジタル化など足元から始めていくものは成功していますが、新規ビジネスを作ったり今のビジネスを変えていったりとなると、成功確率は低くなっているという結果がでています。この調査はコロナ前に行いましたが、コロナ後に聞くと「リモートワークの環境を導入している」という回答がほとんどでした。

私はブレインパッドで全社の営業統括をしていますが、オンラインで何かをすることが当たり前になっている中で、オンライン営業で苦戦している営業パーソンがたくさん増えたという悩みがあります。みなさん難しいとおっしゃいますがそれはなぜかと今考えていまして、オンラインと対面にはメリットとデメリットがあるので、それをきちんと理解した方がいいと思っています。対面は、相手の表情なども含めて圧倒的に情報量が多いですよね。分からなかったときでもインタラクティブにいけるので、行間も埋まっていきます。しかし、オンラインはアポイントが取りやすく回数をこなせる反面、1回の密度がとても薄いのが難しいと感じます。オンラインは、手元にカンペを置いていても相手にはバレませんが、対面ではバレてしまうので手元には置けません。その辺りの違いは面白いと思います。
皆さんがご存知か分かりませんが、『チャレンジャー・セールス・モデル』という本があります。営業パフォーマーにはいろいろなタイプがあり、チャレンジャーセールスを目指そうという本です。その本の中に、営業ハイパフォーマーの構成比がでてきます。
5種類の定義がされていて、勤勉な“ハードワーカー”や関係性で戦っていく“リレーションシップビルダー”、一匹狼で動いていく“ローンウルフ”、お客さんから言われたことを愚直に答えていく“リアクティブ・プロブレムソルバー”、お客さんの気づいていない課題に対して自分の展開でどんどん仕込んでいき、とにかくお客さんのビジネスに対して課題提起をしていく“チャレンジャー”とあります。この本の中ではどんな環境でもチャレンジャーが強いと言われていますが、オンラインになって辛いのはリレーションシップビルダーで、ハイパフォーマーの20%がそういう人だとすると、確実に20%の人は苦戦しているということになります。

これは海外の調査ですが、日本に置き換えると関係構築型が非常に多いと思います。
とくに日本は、あらゆる業界№1の人が「うちは営業力で勝っている」と言いますので、20%では済まないかもしれません。一方で、これからはリレーションシップ型の営業を採用するのはダメだとして、チャレンジャーなど攻めていくタイプの人を採用していきたいと考えましたが、どう見抜けばいいのかが分かりません。コロナ禍前の営業についてどうだったかを履歴書に書かれても、例えば、ウェットな営業をしていたら今の時代ではダメなので当てになりません。営業スタイルを見抜こうと思ったときに、ロールプレイをするわけにもいかないので、見抜くためには上級テクニックが必要です。そうすると、今後オンラインが主体となってくる中で、人材アセスメントの重要性はとても高まります。
韮原:見えないものを測りたいときに、やはりアセスメントは重要だと思いますね。
関口:次世代の営業マネージャーをどのように選べばいいのか?ですが、最初にPXTを紹介していただいたとき、確か事例が営業だったと思いますが、その時代、時代によってハイパフォーマーの定義とは変わるので、今までのハイパフォーマーと言われていた人とは違う人を選んで、新しいハイパフォーマーのモデルを作る必要があるということが説明されました。まさに今はそのハイパフォーマーをどうやって選ぶのかも悩みのひとつです。この悩みは日本中で起きていると思うので、パートナーの皆さんは攻めどころだと思います。
韮原:先ほどのデータの話に戻りますが、デジタルトランスフォーメーションを進めるときの人材不足もあると思います。その点は、ブレインパッドとして外からサポートするときに、そもそも社内の人材で外部リソースを使いこなして旗を振る人は必要で、変化をイネーブルする人も必要だと思います。そういう人の選出も課題だと思いますが、いかがでしょうか。
関口:確かに、誰がやるのかというのは大きな課題です。IT部門というのは、技術が分かっているのでデジタルに向いているというやり方で人を選んでいるところが多いですが、ビジネスを変えなければならないという話なので、技術を知っているかどうかよりも、ビジネスをきちんと理解していて、また現場の苦労も理解している人を選ぶ方がいいです。しかし、経営陣は技術のことは分からないから分かる人に任せようとして、それで失敗していることがよくあります。
韮原:なるほど。本日はDay5ですが、Day1でライズ・コンサルティング・グループの佐藤さんにお話を伺いました。withコロナ、afterコロナでどのような人材が必要かという話で、佐藤さんがおっしゃるには、社内のイノベーション人材と事業をまわすオペレーション人材、そして今は、たくさん起きている変化の中でみなさんに寄り添うメンテナンス人材というものが必要だというお話をされていました。
これから必要な人材はイノベーション人材、オペレーション人材、メンテナンス人材の3種類です。佐藤さんがおっしゃっていてごもっともだと思うのは、戦略は、デジタル戦略やコーポレートトランスフォーメーション戦略などいろいろとあり、そこから組織の機能設計に落としていき、人材要件をプロファイルのようなことをして見極めて、配置し育成して評価となります。この資料にあるように、上から下が断絶していて、中期計画でデジタルトランスフォーメーションと言っていても人材については相変わらず以前と同じ管理職研修を行っています。これは御覧になっている皆さんにもかなりのチャンスで、戦略を育成や評価制度まで落とし込むというのは重要なポイントです。これを佐藤さんからお話しいただいたときに、「昔この話をしていたな」と思い出しました。
これは、先ほど触れた2012年3月の公開セミナー資料で関口さんと2人で作ったものですが、当時の経営的な文脈で言いますと、グローバル化を進めていかなくてはならないときで、且つGoogleやFacebookなどのGAFAが台頭しはじめた頃です。グローバル化とアフターインターネットの時代で、AIはまだありませんでした。当時言っていたことは、高度成長してきたころの人材と、成熟期あるいは成熟停滞期の人材はやはり違っていて、オペレーション的に回す人と、会社を変革し新市場を作っていく、グローバルに打って出ていくという人は、違うタイプの人だということです。そのときに、イノベーション人材とオペレーション人材と資料に書くと、上司に「横文字は使うな」と言われ、開拓・変革人材と書き直しました。

そして成果創出人材とあるのは、既存ビジネスの中で確実に成果を上げていく人で、先人たちが作り上げた勝ちパターンを維持・改善していくような、いわゆるビジネスを回していくオペレーション人材のことです。今ではそこにプラスしてメンテナンス人材が入ります。8年前も、変革人材、イノベーション人材は枯渇状態で、人材供給の仕組みが極めて脆弱なため仕組みを作っていく必要性を訴えていました。これは今も同じでしょうか。
関口:デジャヴでしょうか、ずっとこの話をしているな、となりますね。そういう意味では、今も同じだと思います。
このときに話したのは、日本企業がグローバルで地位があったということですよね。ある意味伸び切った状態でさらに上に行くにはどうすればいいのかという話で、さらなる成長をするためには伸びきった状態の人をハイパフォーマーと設定しても間違ってしまう、ということだったと記憶しています。
韮原:そうですね。あとはリーマンショック後で回復しきっていないので、回復するためには何が必要かというときに、新規事業やグローバルの新市場が重要だという文脈もあったと記憶しています。例えば、アジアは工場だけだったけれども、そこが成長市場として重要度が増した、というような話でしたね。
関口:当時のリーマンショックが今のコロナ、グローバリゼーションがデジタライゼーションに変わっているだけで、確かに同じことを言っていますね。
今は、イノベーション人材や新しいことを仕掛けて変えていく人がいないと言っていて、これについてはアベノミクスの影響が大きいと思っています。業界トップの人の中には、「15年以上良い時代を過ごしている」とおっしゃる方もいますが、15~20年ほど良い時代を過ごしてしまったので、変える必要性を感じなかったという点で同じですね。

グローバル人事の現在(いま)と未来~海外人事調査に基づき、新たな潮流を読む~
ReThink第4回目は、「グローバル人事の現在と未来、海外人事調査に基づいた新たな潮流を読む」というテーマで、beyond globalグループの代表である森田英一様をシンガポールよりゲストでお招きしております。
ナビゲーターは、HRDグループ・プロファイルズ株式会社の水谷壽芳が務めます。
水谷:この度は、Day4にご参加いただきましてありがとうございます。
私は、HRDグループ・プロファイルズ株式会社の水谷と申します。本日は、海外人事調査に基づいた新たな潮流を読むということで、専門家の森田様をお招きして対談形式で進めて参ります。
今回はグローバル人事がテーマです。パンデミックの影響で、様々な変化が地球規模で起きています。この変化に関して、海外人事のみなさまがどう捉えていらっしゃるのかについてプロファイルズ社で事前調査を行っております。この調査に基づいて論点がいくつか浮かび上がっています。森田様にその捉えどころについてのご見解をいただき、そして今後の潮流を読んでいただくというのがこの度の企画の流れになっています。
森田さんは、我々のビジネスパートナーとして取り組みをご一緒させていただいておりますが、現在はシンガポールに拠点を置かれており、日系企業を中心としたグローバル化やグローバル人材の育成、人事制度の変革などを進めていらっしゃいます。シンガポールから見てどのようなことが起きているのかをお話いただきたいと思います。
森田:beyond globalの森田と申します。最初に自己紹介をさせていただきます。私は生まれも育ちも大阪で、大学院卒業後、人事コンサルティングの世界に入りました。20年前に、自律型人材育成にフォーカスを当てたシェイクという会社を立ち上げて10期まで社長を務めましたが、その後、2代目の社長にバトンタッチしました。私は現在、beyond globalという企業グループを作り、シンガポール、日本、タイの3拠点で日本企業のグローバル化支援を行っています。その他東南アジア全域やヨーロッパ、アメリカなどのエリアのサポートをしておりますが、中でも日本と東南アジアがプロジェクトとしては多いですね。
我々は、人材育成という側面と人事制度、評価、賃金などの仕組みの部分の両方をサポートしており、幅広い人事評価制度や駐在員の育成はもちろん、ナショナルスタッフの育成、サクセッションプランというローカル化を進めていく後継者の育成も行っています。
コロナ感染が広がる現在、海外の現地法人で多いと感じているのは、人事制度の変革です。ローカル化を進めていく流れですが、これには駐在員がなかなか現地に着任できなかったり、ビザの発行が難しくなってきた状況があります。例えばシンガポールでは、ビザの発行基準の給与水準がどんどん上がっています。過去に無いほどの上昇率で、今は駐在員がビザの更新ができずに止むを得ず日本に戻ったり、新しい駐在員を呼べなくなっています。これは、シンガポール人の給与がカットされ所得が少なくなっているので、シンガポール人の雇用を守りたいという政府の意向もあります。入国困難な中で、ローカルでも回せる人事制度、きちんと仕組み化されたものや成果が見えるものをどう構築していくのか、今までは海外現地法人も含めて仕組みはあったとしても、運用でつまずいているというケースも多かったので、その運用や制度の見直しが非常に増えています。
また、コロナ以前は、リージョンの研修なども東南アジア各国からシンガポールに集めて行うことが多くありましたが、最近ではこれをオンライン化しています。
さらには、これまでは日本の拠点から海外に派遣して日本人向けに海外派遣研修も行ってきました。例えば、ヨーロッパに派遣するビジネスや、経営者候補の方々を新興国に送り育成するようなことです。コロナになってからは、これをオンライン化し先月も大規模で行いました。オンラインで行う利点は、国境を超えて何度でも集まれる、そして費用も安いということです。このようなオンラインでのグローバル研修は、かなり引き合いが増えております。派遣は費用がかかるので、なかなか大人数を行かせることができませんでしたが、オンラインにすることで選択肢の幅が広がり、多くの方がオンラインでグローバルな環境にどっぷりと浸かることができるということが、最近感じている変化です。
水谷:ありがとうございます。まさに新しい時代に先駆けて、森田さんは様々な取り組みを行っているという印象を持っております。本日もシンガポールと繋いでいますが、まさにオンライン化が進む中で森田さんをお招きできて、うれしくと思っております。昨年は我々がシンガポールに伺ってセミナーを行いましたが、今回はオンラインで挑戦していこうと思っています。
本日の進め方ですが、事前に我々で海外人事のこれからについて調査を行っています。その調査に基づいていくつか論点が出てきましたので、森田さんが直近で感じていることを惜しみなく皆さんに提供していただきたいと思っております。


ラーニングのオンライン化のその先、3つの方向性 ~変化が必要なこと(STOP)/新しく始めること(START)/変わらないこと(KEEP)~
ReThink Day3 イベントレポート
HRDグループが毎年開催しております「Assessment Forum Tokyo」、今回はオンラインに形を変え、コロナ禍に向き合う新しい未来のための価値あるコンテンツを提供する場として開催されました。 経営戦略やDX、グローバル人事など、より広い視点から組織・人材マネジメントについて問い直し、再出発するための一連のデジタルイベントとして多く方のご参加を賜りました。
ReThink第3回目の本日は、ユームテクノロジージャパン株式会社の小仁様と株式会社シェアウィズの辻川様をお招きし、「ラーニングのオンライン化のその先、3つの方向性」というテーマでご対談をいただきます。ナビゲーターは、HRDグループの久保田智行が務めます。
ユームテクノロジージャパン株式会社ビジネスプロデューサー
株式会社ラーニングシフト 代表取締役
大学卒業後、(株)ビジネスコンサルタント、アルー(株)、(株)ファーストキャリア、(株)セルムを経て、株式会社ラーニングシフトを設立。100年時代の学びをアップデートするべく、HRテクノロジーを活用した事業開発、研修・組織開発コンサルティングを提供。UMUの国内での拡販に初期メンバーとしても参加。現在、企業のラーニングのオンラインへのトランスフォーメーションを支
辻川 友紀 氏
株式会社シェアウィズ 代表取締役
1984年生まれ。京都大学大学院生命科学研究科修了。P&Gジャパン(株)を経て、2012年に(株)シェアウィズを設立。「学習コンテンツの流通を最適化し、学ぶ希望が見つかる場所をつくる」をミッションに掲げ、社会人向けのオンライン動画学習サービスを提供。個人向けの学習コンテンツプラットフォームShareWisの他、研修事業者、教育事業者等を対象にした、法人向け学習コンテンツ配信システムWisdomBaseを展開している。
【シェアウィズ社へのお問い合わせはこちらまでお寄せください。】Email: support@share-wis.com
久保田:新型コロナの影響で、教育や学びが一時止まってしまい、その後オンライン化が進みました。しかし、教育については、以前から変化や革新が求められていました。新型コロナの影響により急激な変化が余儀なくされましたが、もし新型コロナが収まったときにどうなるのか。本日お招きしているおふたりは、新型コロナの前から教育や学習の変化を見据え、実践されてきました。さらに今は、未来を見据えていらっしゃると思うので、是非おふたりの知見を共有していただければと思います。早速ですがラーニングの変化について、小仁さんの所感をお話しいただけますか。
小仁:今年は、多くの企業様がオンライン化に踏み切りました。来年度からはどうなるのか、ということについて情報提供をさせていただきます。本日のテーマであるラーニングのオンライン化は、今から2年前、もともとは東京オリンピックを見据えた準備が進められていました。私たちが提供するラーニングプラットフォーム「UMU(ユーム)」も、今回のコロナ禍の中で、一気に受講者が増えました。日本国内において、アプリの企業ユーザー登録も9000社に到達しています。そんな状況下において、私たちが実感したニューノーマル時代の学習トレンドについてお話ししたいと思います。
2020年度はオンライン化の年になりましたね。ここで言うオンライン化というのは、これまで主流だったeラーニングだけでなく、Zoomなどを活用した、オンライン研修と学習という領域まで波及したという意味です。いつでもどこでも、どんなときでも可能になりました。しかし厳密に言うと、オンラインと一言でいっても色々なものがあります。

軸で分けると、上が双方向で下が一方向。右と左が同期、非同期ですね。Zoomによるグループミーティングは、右上のオンラインクラスルームに該当します。この領域は共有体験を実現し、即時フィードバックがあり、対話を通じて学ぶことに向いています。一方で、ウェビナーは一方通行ですが、拡張性が高いですし、記録・保存して二次利用ができます。先ほどのオンラインクラスルームでは参加者のプライバシーや機密性の高い情報を含めた様々な声が入っているので、他では利用できません。
そして左側の非同期では、オンデマンドは設計が不要なので、コスト面でメリットがありますし、これに双方向性を取り入れたのがeラーニングです。自分自身のペースで学習できたり、多くの学習機会があったりするので、全員がアウトプットできます。集合研修は、ぼーっと受けていても受講になりましたが、オンラインではそれができません。
こういったものの中から、効果、効率、コストのバランスを考えながら最良のものを選択するということが、今年、様々な企業様が模索されたところだと思います。
それでは、対面集合型、そしてオンラインの研修や学習が、来年度どのようになっていくか。私たちが考えるキーワードは、「ブレンディッド・ラーニング」です。やはり学習には目的があるので、最適な形で学習方法を組み合わせることがポイントになります。
これからの学習フォーマットは、「教室内でのトレーニング」「オンラインでのライブ研修」「オンライン自己学習」の三つに分類されていきますが、どれもメリットとデメリットがあります。例えば、教室内のトレーニングはその場での参画度はとても高いのですが、アウトプットは設計によっては難しいですね。私はオンラインでのライブ研修が大好きですが、チャットで呼びかけると、全員が投稿をしてくれるので、むしろ情報が多いのではないかと思います。テーマによって、この3つをどのように組み合わせていくのかということがポイントだと思います。

教育のオンライン化最大のメリットは、教育プロセス全体の設計と実践を可能にしたことにあると思います。従来の研修はイベント色が強く、本当に身についているのかどうかが疑問でした。フォローでもう一度集合研修をするのは交通費や宿泊費がかかりますよね。ここで有効なのがブレンディッド・ラーニングです。やはり「知っている」を「できる」にするためには大きな壁があり、定着化や現場で使ってみてなんぼの世界です。オンライン化によって、やってみたものをしっかりとフィードバックしてコメントをしたり、他の人と共有したりすることが可能になり、学び方も大きく変わりました。
従来型のeラーニングはコンテンツが多く、少しテストをするくらいのものでした。今の「マイクロ・ラーニング」では、短いコンテンツを学んだら都度、実際に話すのか、試験を受けてみるのか、あるいは自分の言葉にしてみます。そして、もう一度フィードバックを受けます。このサイクルを実行するには、コスト面を考えると、どうしてもオンラインを使わざるを得ません。むしろ、オンラインを使うことによってのみ可能になります。来年度の学びのスタイルは、事前にオンラインで学習し、その後、集合研修を行い、事後にオンラインでフィードバックをするという流れになると考えます。
私たちは、これを「パフォーマンス・ラーニング」と呼んでいますが、成果が上がるための設計があって初めて活きてきます。なので最悪の設計をデジタル化すると、最悪の研修になってしまいます。よって知識やハンズオン(実際に手などを動かすもの)、ソフトスキルや理念浸透など様々なテーマに応じて、どうしたら効果的に教えられるのか、どうしたら効果的な練習ができるのか、どうしたら評価できるのか、それをブレンディッド・ラーニングで集合研修と自己学習、オンラインのライブ研修を組み合わせながらやっていくということが、来年度の研修の在り方になっていくと考えています。



リアルからバーチャルへ、変わる『職場』の再定義
ReThink Day2 イベントレポート
HRDグループが毎年開催しております「Assessment Forum Tokyo」、今回はオンラインに形を変え、コロナ禍に向き合う新しい未来のための価値あるコンテンツを提供する場として開催されました。 経営戦略やDX、グローバル人事など、より広い視点から組織・人材マネジメントについて問い直し、再出発するための一連のデジタルイベントとして多く方のご参加を賜りました。
ReThink第2回目は、Virtual Workplace Lab.の代表であり、株式会社エスノグラファーの代表でもある神谷俊様をお招きしております。「リアルからバーチャルへ変わる職場の再定義」をテーマにお話をいただきます。 HRDグループの久保田智行がモデレーターを務める、対談形式で進めてまいります。
神谷 俊氏
Virtual Workplace Lab. 代表
株式会社エスノグラファー 代表取締役
法政大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。エスノグラフィーという調査方法を専門技能として、企業や地域などの分野でフィールドワークを実践。2020年5月、ポストコロナ時代の「職場」の在り方や働き方を探求することを目的に研究プロジェクト Virtual Workplace Labを設立。従来の職場環境が、バーチャルな環境にシフトすることによって生まれる効果や不整合について研究知見を提供。丹念な文献リサーチと企業調査を繰り返し、実践的なノウハウの提供を推進している。
神谷氏へのご質問は、下記までお寄せください。
https://www.virtual-workplace-lab.com/contact
久保田:神谷さんも本日、約半年ぶりに東京に出られたということですが、多くの方々が新型コロナの感染拡大により、働き方が大きく変化したと実感されていると思います。
バーチャルシフトは日本だけではなく、人類全体の実験だと思います。新型コロナが治まった時にどうするのかという点については、現時点において、組織によって考え方が分かれていると思います。バーチャルシフトというのはメリットもデメリットもありますよね。本日は、その点をなるべく言語化して、明確にしていきたいと考えています。組織社会学的なアプローチで知見が豊富な神谷さんをお招きできて、本日はとても嬉しいです。
神谷さんはこの春にVirtual Workplace Lab.を立ち上げて、バーチャル時代の組織について研究されています。本日はそのデータもたくさんご用意いただいております。まずは、バーチャルシフトの特徴や定義づけをお願いします。

神谷:株式会社エスノグラファーという、リサーチとコンサルティングビジネスの会社を経営しています。このエスノグラファーという会社は、私が研究者のときに、文化人類学や社会学のエスノグラフィーという調査方法を専攻していたので、その調査方法を用いながら地域や企業の活動、商品開発をしていこうということで立ち上げた会社です。定量的なアンケート調査も行いますが、基本的には現場やフィールドに行き一社員としてお仕事をさせていただいたり、ひとりの研修受講者としてその研修に参加しながら、他の社員や受講者の動きを観察するという質的な調査を中心にビジネスを展開しています。
しかしコロナウィルスの感染拡大により、全面的に皆さんがリモートワークに移行しましたよね。その中で私も現場に行くわけにいかないので、オンライン環境でのエスノグラフィーであるバーチャル・エスノグラフィーを始めました。すると、上半身だけスーツを着て会議に参加をしたり、後ろで子供が騒いでいると音声を消したり、あるいは背景を全てブラックアウトにして家庭が見えないようにしたりといったような、一見すると矛盾しているような不都合な状態というものがたくさん見受けられました。これは何とかした方がいいと考え、4月にVirtual Workplace Lab.というプロジェクトを立ち上げた次第です。
久保田:緊急事態宣言で、皆さんが家に留まっている最中でしたね。
神谷:そうですね。3月頃から全面的にリモートに移行すると思いましたし、それまで、海外に比べて日本はリモートの導入率が圧倒的に低かったのです。企業では全体の15%ほどしか導入していませんでしたし、導入している企業の中でも数%の社員しか実際にリモートワークを利用したことがないという状態でした。社会的に働く上での制約とでも言いますか、例えばお子さんがいて、なかなか働く時間が十分に取れないといった方に向けての制度としてのリモートワークという位置づけになっていました。なので、これは適用するのが難しいだろうと思い、適用を支援するために立ち上げたプロジェクトがVirtual Workplace Lab.です。
このプロジェクトの基本的な概念はバーチャル・ワークプレイスです。海外では当たり前のように研究されている領域なので、オンライン上の職場での研究文献を読み込んでいます。海外では、90年代以降からバーチャルチームの研究は進んできているので、その辺りの知見をインプットしつつ、日本のリモート環境におけるHRM(人的資源管理)の役割、つまり、人事がオフィスではない環境下でどうやって社員を支援できるのか、または能力開発ができるのかといったところを定義していきます。さらにリモートワークに移行する企業の多くは問題を抱えているので、その部分の解決コンサルティングも行っています。
では、リモートワークの推進背景、バーチャルシフトの本質部分についてお話したいと思います。バーチャルシフトとは何かというと、「リアルからバーチャルに移行すること」ということが最もシンプルな説明ですね。オフィス環境からどこでも働けるような環境にシフトしていくことです。このバーチャルシフトを今後も続けていくのか、とよく聞かれますが、私は今後も継続的に進むと思っています。理由は、日本政府がそれを支援しているからです。日本の労働人口が1990年代からどんどん減少していく中で、生産性や一億総活躍と皆さん言われ続けていますよね。その国が抱えている大きな人的資源の問題とリモートワークというのは、とても相性がいいです。
今回の新型コロナウィルスによって皆さん強制的にリモート環境に追いやられたわけですが、そこで得た学習機会は大切にしなければなりませんし、それを活用しなければ、高齢化社会の中での日本のビジネスというのは持続的ではないと思います。なのでバーチャルシフトはまだ続くと思います。
また世界的な潮流として、マッキンゼーが指摘しているウォー・フォー・タレント(人材獲得競争)がスタートしています。優秀な人材をいかに獲得していくかということで、バーチャルシフトが重要になってきています。例えばとても優秀なエンジニアが沖縄でダイビングをしながら働きたいと言ったときに、企業はその人材をとれるかが重要です。リモートワークを採用していれば難なく獲得することができます。しかしオフィスに来てもらわなければならないという前提になると、採用は難しくなります。
久保田:それは国をまたいだときにも言えますね。
神谷:そうですね。GoogleやFacebookなどは従来からバーチャルチームの運用をしていますが、彼らがバーチャルチームを取り入れている理由は、市場を全世界で見ているので、世界中から優秀な人材を調達してプロジェクトチームを作るためです。なので中国、日本、アメリカ、イギリスといったところで点在している社員が、チームを組んでプロジェクトを進めるといったことも可能です。社会的な背景やビジネス効率の両方を踏まえても、リモートワークはとても相性がいいですし、それを戦略的に進めていく時代が来ていると思います。
実際にアメリカのガートナーは、「2021年までに中堅と大手企業の4分の1がバーチャルな環境へのシフトを成功させる」と言っています。全員がオフィスに集まって合意形成の会議を行い、それで意思決定をしていくというスタイルではなく、それぞれのチームが現場で判断して意思決定を行うという、セルフマネジメントを中心とした考え方で分散型の意思決定が進んでいくと考えられます。そしてリモート環境が整備され、オフィスの意味が変わってきます。仕事をする場所がバーチャルになるのであれば、オフィスは新たな意味を持ってくるので、その辺りの再設計が進められるということが、新型コロナの前である2019年から言われています。
過去の研究を見ていくと、リモートワークの導入メリットについて、このように言われています。まずは時間的なコスト削減です。もちろん移動時間などが削減されるので、時間的なコストダウンは有益になります。また距離のコストダウンです。出張やお客さん先の訪問などが無くなるので、その辺りのコストも削減されます。そして自律性やセルフマネジメントの向上です。現場が自主的に判断するという能力や問題解決の力が身に付きます。
それからタレントマネジメントの効率化もあります。ここでいうタレントはとても優秀な人材のことを指しますが、先ほど沖縄でダイビングをしながら仕事をしたいという人の例をあげましたが、そのような優秀な人材を時間や場所の制約に囚われずに、プロジェクトにアサインしたり採用することができます。もちろん採用力が上がりますし、知識共有が促進されます。オフィスでは皆さん黙々と仕事をしているので、なかなか情報の共有は進みませんでしたが、バーチャルではチャット上でどんどん情報の共有がされます。

久保田:リアルな職場の方が、会話の中で情報共有ができるという意見もありますよね。両面があるということでしょうか。
神谷:知識の質にもよると思いますが、メディア上に掲載されている情報や論文の情報など、バーチャルに置かれている知識の共有というのは、オンラインの方が共有されやすいです。しかし現場で培ったノウハウや営業経験から得た知見などは、おそらくリアルの方が共有されやすいと思います。総論的に見ると、情報共有が促されやすいという研究結果があります。
そして創造性の向上です。これは日本企業においては微妙なところがありますが、オンラインでは意見を出しやすいです。自分の意見をチャットなどで書き込みやすいので、様々な意見の有益な衝突が起こります。そのコラボレーションの中から創造性が生まれやすいと言われています。
そして皆さん気になるところだと思いますが、ネガティブなものもたくさんあります。先ほど知識の共有のところで、知見やノウハウが共有されにくいという話がありましたが、やはり意図しない情報は入りにくいです。自分が探したり検索することで得られる情報は周囲と共有しやすいですし、自分の仕事に関する情報というのは入ってきやすいのですが、例えばオフィスを歩いていると「最近何をやっているの?」と話しかけられるところから始まる、偶発的な情報共有があります。それが低下することによって、学習レベルも低下すると言われています。
そして家で仕事をしているので、特に若手の方でワンルームに住んでいる方が非常に感じやすいのですが、孤独感を感じたり、あるいは子育てをしている方が仕事中に子供の面倒を見たりすると、罪悪感を感じるケースも報告されています。そうして心身が弱まってしまうので、健康レベルが低下してしまいます。また、エンゲージメントが低くなりやすいです。分散して働いているので組織を感じる機会が少なくなり、組織に対するエンゲージメントが低下しやすくなります。

久保田:新入社員の中には、入社後ほとんどオフィスに来ていなくて、顔を合わせていないという人も多いと思いますが、それで新入社員のエンゲージメントに影響が出ているという話はよく耳にします。
神谷:新入社員は従来であれば、現場での相互作用、例えば先輩社員や上司、同期とのコミュニケーションの中で組織への適応をしていきます。しかしそのコミュニケーションがある程度制限されてしまい、働いている実感が持てません。また、企業が新入社員への仕事をバーチャルで生み出すことが出来ておらず、雑用をお願いしてしまうケースが多いです。それでやりがいを感じられず、当然周りから褒められるケースも少なくなるので、承認されずに孤立化するというケースも増えています。
そんな中で会社を辞めたいという気持ちも出てきますし、上司の管理レベルも低下します。部下が今、どんなことでトラブルを抱えているのか、どんなことで悩んでいるのかがとても分かりにくいです。オフィスにいれば、朝出社してきたときの顔を見てなんとなく察することが出来ますし、「ざわざわしている」といったようなノイズから何かを感じることも出来ます。しかしオンラインではそれが出来なくなるというデメリットがあります。結果的に人事評価の質の低下となり、適切に評価が出来なくなったり、反対に部下は上司にアピールする機会が減るので、昇進昇格が停滞します。
また、ワーク・ファミリー・コンフリクトという概念がありますが、仕事と家庭がコンフリクトします。これは大きな問題だと思いますが、やはり家庭は家庭でとても大きな仕事量があります。しかし、それとは別に仕事もあるので、それぞれが同じ空間で行われるとせめぎ合いが起こります。例えば仕事でイレギュラーが発生して緊急対応をしなければならなくても、それが子供を迎えに行く時間と重なったとすると葛藤が起こります。どちらを取っても罪悪感は残ります。このようなコンフリクトは様々な状況で発生します。
久保田:今までは場が違うので、そこで切り離されて責任も明確になっていたけれども、同じ場にいるとリアルになりますね。
神谷:やはりバーチャルの特徴は、時間と空間が融合してくるということです。仕事の空間はオフィスで、仕事の時間は定時などと定まっていたものが、家庭の空間と時間軸がミックスしてきます。その矛盾がありますね。本来であれば、家庭というのは仕事を忘れて家事や育児に勤しむ場なのに、そこで仕事を行うことによってコンフリクトが起こります。
リモートワークという働き方にはメリットとデメリットの双方がありますが、これからの日本を考えると、やはり労働人口が減少していく中で、どのように生存戦略を作っていくかが求められます。その点において、リモートワークというのはとても重要なキーになってきます。一方でデメリットもたくさんあるので、バーチャルシフトをいかに円滑に進めていくかということが、非常に重要なポイントになってきます。


ポストコロナの組織・人材戦略を見通す
ReThink Day1 イベントレポート
HRDグループが毎年開催しております「Assessment Forum Tokyo」、今回はオンラインに形を変え、コロナ禍に向き合う新しい未来のための価値あるコンテンツを提供する場として開催されました。 経営戦略やDX、グローバル人事など、より広い視点から組織・人材マネジメントについて問い直し、再出発するための一連のデジタルイベントとして多く方のご参加を賜りました。
今回は、株式会社ライズ・コンサルティング・グループの取締役である佐藤司氏をお招きして開催された、「ポストコロナの組織、人材戦略を見通す。戦略人事の新たな役割と、経営戦略を組織、人材戦略に落とし込む方法」の模様を皆様にお届けします。HRDグループの韮原祐介がモデレーターを務めた対談形式によるイベントレポートです。
佐藤 司 氏
株式会社ライズ・コンサルティング・グループ 取締役パートナー
ローランドベルガー、コンサルティングベンチャーの立ち上げメンバーとして、戦略立案から実行まで一貫して支援。 小売業、製造業、エネルギー、金融等多くの業界・テーマでの知見を持つ。 ライズ・コンサルティング・グループ参画後は、新規事業戦略案件、海外進出戦略、ビジネスモデルの刷新、中期経営計画等の戦略コンサルティングを担当。
株式会社ライズ・コンサルティンググループ
ライズ・コンサルティング・グループ社では様々なクライアントや経営層に対して、デジタル・トランスフォーメーション(DX)やディスラプトの戦略立案から実行まで一気通貫のご支援をされています。
これらに関してお困りの際には、気軽にご相談ください。
また、ライズ・コンサルティング・グループ様のサイトにおいても、当イベントについての紹介をいただいておりますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/rise_cg/n/nf093318ec2a2
佐藤様、この度のご登壇への協力、誠にありがとうございました!
コロナ禍における経営環境の変化をチャンスに変える
韮原:早速ですが、ポストコロナ、あるいはデジタル化が進んでいく中、組織や人材に対する考え方にどのような変化が生じ、それを経営者や人事担当者がどのように捉えているのか、その現状から簡単にお話しいただけますでしょうか。
佐藤:これをチャンスと捉えるのか、ピンチと捉えるのか、それは経営者次第だと思っています。僕はこのような変化はチャンスと捉える方が得だと思っています。世の中が、どのように変わっていくのかを見据え、先手を打った人が有利になっていくと考えています。ですから本日は、そのような観点からお話できたらと思います。
韮原:企業の経営戦略は、withコロナやポストコロナでどのように変わっていくのでしょうか。コロナの有無に関わらず、デジタル化は急速に拡大しているので、その点も含めてお聞かせください。
佐藤:今回、COVID-19の感染が拡大した結果、感染予防のために、各国で移動が制限されました。移動が制限されたといっても生活はしなければなりませんし、少し落ち着いた頃には事業も回していかなければなりません。そのための手段として、デジタル化が進んでいます。
様々な領域でデジタル化が進んでいますが、その結果、閾値を超えて軸足が変わってくる領域が現れます。軸足が変わった世界を様々な角度から考えてみると、「こうすれば、もっとよくなる!」という変革や再構築のチャンスはたくさんあるように思います。
分かりやすい例では、営業シーンは大きく変わってきたと思います。従来は対面営業が中心で、例えばBtoBであれば、お客様にアポを取ったのちに訪問し、会議室で話すことが多かったと思います。しかし最近では、ZoomやTeamsなどのオンラインに変わってきています。これは、「営業チャネルがデジタルに変わったと」捉えるだけでは不十分ではないかと思います。
「営業シーンの変化」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ
おそらく変化の本質は二つあり、一つは、「ブラックボックスの透明化」かと思います。つまり、リアル営業の頃は、上司である営業課長が部下の営業を同行して中身を把握できるのは、多くても10%程度だったかと思います。それがオンライン営業になると、仮に録画をしていればその録画データを解析できますし、例え録画をしなくても、最近はストリーミングで音声や表情を解析できるようになっています。したがって、全件モニタリングが可能になったわけですね。
もう一点の変化は、「地理的な制約からの解放」です。つまり、リアル営業の頃は、移動時間を計算して動いていたので、例えば都内であれば1時間のアポのために、最低でも2時間~3時間はブロックしていました。出張では1日、2日ブロックする必要がありました。しかし、それがZoomやTeamsを使用することで、東京にいながら、一瞬で沖縄の方とでも、北海道の方とでも会話をすることができます。したがって、移動時間や地理的な制約が無くなりました。
このような変化を捉えると、営業はどのように再構築できるのか?例えば、会議動画をストリーミングしていく中で、自然言語解析を使いテキスト化したり、サマリにしたりできれば、議事録もある程度は自動作成できます。そして、その議事録をSalesforceに自動的に登録したり、Salesforce上でステージ管理ができるようになります。例えば、初回の商談だったけれども見積依頼をもらったのでステージを進める、ということも自動的に管理できるように、営業の周辺業務も効率化できると考えています。
さらに次のステップになると、ストリーミングをしながら、営業マンと相手の表情や会話内容がどれだけシンクロしているのかを解析することができるようになります。心理学でいうミラーリングの度合いによって商談を評価したり、表情の作り方・話し方含め、「これを直せばもっと良くなる」という基本トレーニングも自動化できるようになります。
さらに言いますと、商談の進捗があるものと、進捗が無かったものを比較したときに、どのような話法の違いがあるのかといったことまで分析できるようになります。つまり、ベストプラクティスの抽出と展開ができるようになります。デジタルの世界でいうA/Bテストを、オンライン商談にも導入し、話法を進化させることができます。
さらには金融や不動産では、重要事項説明をしっかりとする必要があったり、金融においては、「絶対に儲かる」といったようなNGワードがあるので、全件モニタリングができることによって、コンプライアンスも格段に改善することができます。
このように効率化が進んでいけば、人間は単純業務から解放され、より高付加価値業務に特化できるようになります。地理的な制約を外すことにより、全国に営業組織を持っている会社であれば、エリアごとに人を配置する必要もなくなり、商品やプロダクトごとに地理を問わず、例えば広島にいる人が日本全国のある特定のサービスについて常にバックアップできるような体制を持つことができるようになります。
「営業シーン再構築」 出典:ライズ・コンサルティング・グループ
しかし人間は変化を嫌う、恐れる動物なので、不安を感じる人や順応できない人も出てきます。したがって、その部分のケアはとても重要になってきます。特にデジタル化が進んでくると、例えば会食などで仲良くなるという機会がなくなるので、疎外感を感じたり、不安になる方も増えてきます。そこをどうするかは非常に重要ですね。
今は、営業職という分かりやすい例で説明しましたが、その他にも不動産や小売、医療など様々な分野でも様々な「再構築」は見られます。例えば、不動産の軸足がどのように変わるのかというと、これまでは住職近接が基本でしたが、それがテレワーク中心になってくると、住む場所=好きな場所になります。そうなると、まずはどのような建物を建てるのかというレベルで再構築が必要になっています。
また、テレワークに相応しい住居レイアウトについては最近、話題になっていると思います。例えば、夫婦共働きで1LDKに住んでおり、夫婦2人のオンラインミーティングの時間が重なったとします。2人ともリビングにいるとお互いの声が入ってしまうので、リビングと寝室に分かれるしかありませんが、寝室ではカメラをオンにしにくいという問題などがあると思います。また、小さなお子さんがいた場合は、その泣き声が入ってしまうという問題も出てきます。これらを、レイアウトの工夫でどう改善できるか?
さらに、住む場所を変えるとなった場合、その人にとってのコストパフォーマンスがいい場所を探すと思います。但し、職場のそばに住まなくてもよいとなると、検索が一気に難しくなります。そのあたりが改善されると、人の動きもダイナミックになってきます。例えばファミリー層で家賃を10万円支払って都内に住んでいる方が、都内を離れて同じ条件の月10万円で家を買おうとすると、石川県金沢市でも月10万円のローンで150平米の土地に100平米の建物がついた新築一戸建てが買えます。また近場では、横浜市の戸塚は同じくらいの値段で買えます。どんどんライフワークバランスを良くするための工夫ができます。このような再構築が至るところで出てくるというのが、コロナを見据えたときの戦略変化だと思います。