HRD株式会社 - Human Resource Development

2021.2.3 EVENT

リアルからバーチャルへ、変わる『職場』の再定義

~データから見える真実と向き合い、新たな組織マネジメント手法を見出す~

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リモートワーク環境で生じる多くの問題点

神谷ここからは、ワーク・ファミリー・コンフリクトや葛藤が起こる理由についてお話をしていきます。社会学には「場」の理論というものがあります。クルト・レヴィンという人が提唱しているもので、「場」というのは単なる空間の違いだけではなく、潜在的な意味の違いが生まれるという理論です。私が今この場で話をしている環境というのは、周りにはスポットライトやカメラがあり、とても緊張している環境です。このような特徴のある空間であったり、あるいは初めて会う人がたくさんいるような社会的な特徴、または心配性や真面目といった個人的や心理的な影響というようなものでも、「場」の捉え方は変わってきます。

「『場(field)とは』」:出典:Virtual Workplace Lab. 

さらにはこのReThinkのイベントはシリーズもので定期的に開催されているもので、過去どのようなことをやってきたかという歴史的な影響によっても、この「場」の意味は変わってくると思います。このようにいろいろな影響を受けて、「場」は構成されています。分かりやすい例えを言いますと、サラリーマン達が飲み会をしていて、そこに部長が来た瞬間に場の空気が張りつめたり、社長や役員が来た瞬間にみんなウロウロし始めますよね。あれは同じ場所ですが、登場人物が増えたことによって、「場」の社会的な意味が大きく変化したということです。反対にオフィスの中で、朝にプライベートの話をすると怒られますが、夕方ではあまり怒られないという時間的な影響もあります。「場」というのはそれぞれの特徴や意味を帯びているというのが、社会学的な考え方です。

この「場」がオフィスとリモートワークではまったく違います。従来はその「場」がきちんと切り離されていました。onとoffが分けられていて、時間的には定時という区切りがありましたし、空間的にはオフィスという区切りがありました。その境界線を超えればプライベートの「場」なので、そちらの「場」に合わせて自分の行動や役割を変えることが出来ました。自分自身の役割をビジネス用と家庭用に切り分けてマネジメントをすることが出来たということが、従来のリアルな働き方です。

しかしこの境界のようなものが、リモートワークになると薄れてしまいます。空間では自分の席のようなものがありましたが、それが無くなりますし、時間では定時や昼休み、残業と区切られていましたが、すべて自分で判断することになります。そしてオフィスでは周りに上司や同僚、部下や顧客などがいたので、その人に合わせたコミュニケーションや仕事のスタイルが確立されていましたが、家では1人で仕事をすることになるので急にやる気が失せたり、無気力になったりします。またスーツを着たり敬語を使うといったところでも、オフィスにはかっちりとしたルールがありました。しかしそのオフィシャルなルールを家庭環境に持ち込むということはなかなか難しいですよね。そういった境界が無くなってしまったことにより、リモートワークではたくさんの問題が起きていると考えられます。

リアルな環境では、オフィスの中で「表舞台」と「裏舞台」がありました。これは社会学者のゴフマンという人の考え方ですが、やはり人間の生活の中では、ちゃんとしなくてはならない「表舞台」と、気を抜ける場所である「裏舞台」が存在しています。このonとoffが入り乱れることによって人間は緊張感を持って仕事ができますし、リラックスをすることができます。オフィスという物理的な環境ではその切り替えが上手くできていたと思います。

例えば、会議の時間が決まっているので、だいたい10分ほど前には今の仕事を切り上げて、会議室へ移動して会議に臨みますよね。その移動時間というバッファがありました。「表舞台」と「裏舞台」が切り替わるスイッチというものがきちんとありましたが、これがリモートワークでは無くなってしまいました。境界線のようなものが敷かれなくなったので、物理的な移動もありませんし、自分の時間と家庭の時間を自分で切り分けなければ、仕事のスイッチが入りません。自分で何でもデザインする必要が出てきました。

「時間的・空間的『境界』がなくなったことの弊害」:出典:Virtual Workplace Lab. 

久保田先日、Zoom社のイベントで、「何かZoomに欲しい機能があるか」という質問の際に、ある方が「余韻が欲しい」と仰っていました。ミーティングなどが終わったときにブツリと切れてしまうのがさみしいので、帰り道をZoomで作ってほしいということでした。まさにそれが、表舞台と裏舞台の境目ということですね。

神谷従来は会議室に行き上司が先に座っていても、時間がまだ早ければ、会議室を素通りして自分なりに時間を作ってから会議室に入るということが出来ましたよね。しかしオンラインでは、アクセスすればみんながいる状態で、強制的にスイッチを入れられる感じになるので、大変だなと感じます。

それで起きているのが、アメリカなどでは問題になってきていますが、Connectivity Paradoxというものです。繋がりっぱなしであることで問題を抱えてしまうという問題です。本来リモートワークでは孤立感や孤独感が生まれるので、なるべく繋がろうと言われ続けてきました。しかし繋がりっぱなしでもストレスがかかるという矛盾を発生しています。新入社員や若手社員という組織の中でも弱い立場の人は、繋がりっぱなしで仕事を受け入れていると、疲弊してしまいます。ある程度さぼり方を分かっていたり、適当にやるところなどのスイッチを自分で入れることができれば、ずっと繋がりっぱなしということはなく、自ら休憩を入れることができます。日本人はとても真面目なので、ずっとバーチャルな環境に身を置いてしまうとストレスを感じてしまいメンタル不調になってしまう方も多いですね。

空間的や時間的な境界というのは、リアルなときは会社がデザインしていたオフィスに出社することで、なんとなく無意識的に働けていたと思いますが、リモートワークになると、すべて自分でフレームを作り、仕事の場や仕事の時間ということを自分の中で調整することが、とても重要になってきます。

久保田敢えて家でもスーツを着て、自分でモードを切り替えるという対策を取ってる方もいますよね。

神谷繰り返しになりますが、リモートワークで孤独感や罪悪感を覚えるというのは、繋がりが弱ければ孤独感を感じますし、繋がりが強ければ家のことを少ししただけでも罪悪感を感じてしまいます。onとoffの間で自分のアイデンティティや役割が揺らぎやすかったり、規定しにくいということがあります。そんなことをしていると、心身の健康レベルが低下しますし、仕事のパフォーマンスも低下します。空間や時間がきちんと規定されなくなってしまったところに、リモートワークの大きな問題があると思います。

久保田視聴者から質問をいただきました。今の話は、役職や責任のレベルによって捉え方が大分違うと思いますが、ワンルームに住む若者の孤独感や孤立感を減らすためには、どのような工夫の仕方がありますか。

神谷実際に若手の社員や新入社員にアンケート調査をすると、ワンルームに住んでいる人ほど健康リスクを抱えています。ワンルームに住んでいると机を置けないので、ローボードの上や膝の上にパソコンを置いて仕事をしている場合が多く、仕事環境が整っていません。ハードの側面で言えば、ワンルームで仕事をさせるということには限界があるので、オフィスの開放日を設けたり、あるいはバーチャルオフィスのような形でコワーキングスペースの利用を経費で承認するなど、ハードの環境を整えることが第一だと思います。

久保田家庭環境を考えなければ、有効な対策は出てきませんね。

神谷新人や若手が大変だという例を出したので、そこに問題意識が高まってしまいますが、実は今ストレスを抱えているのは管理職です。実際に定量的な調査で分析をすると見えてくるのは、大きなお子さんがいて、子供が2人以上いる家庭で管理職をされている方が、かなり健康リスクが高いということです。子供が複数人いることで家事の量が増えてきますし、また小学生や中学生のお子さんだと、オンラインで学校や塾の授業を受けるので、家庭の通信量を持っていかれてしまいます。そのような制約がたくさんある中で、管理職としての責任を果たさなければならないので、40代半ばから後半あたりの方で健康リスクを抱えている方が増えてきています。

バーチャルというのはそれぞれが置かれている環境が全く違うので、置かれている場によってリスクの要因も変わってきます。重要になってくるのは、メンバーそれぞれが置かれている場がどのような場なのか、ということを意識するようなマネジメントです。これまでは同じオフィスで同じ時間で働いていますし、同じツールを利用しているので、一律的にマネジメントをすることが出来ました。しかしリモートワークでは、置かれている場や環境、社会的な繋がりも違うとなってくるので、それぞれに合ったマネジメントの仕方や仕事のさせ方というものを考える必要があります。なのでチームの再構成が求められてくると考えます。

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